リンクトインは世界最大級のビジネスに特化したSNSです。リンクトインでは、人材の発掘と採用をサポートするツールをサブスクリプション方式で提供していました。このツールはよく売れたのですが、解約率も高いものでした。2010年頃の解約率は約30%で、毎年契約した顧客10人中3人がツールの利用をやめていたことになります。
リンクトインは解約率を低く抑えるために、更新の時期が近づくと解約するリスクが高い顧客のサポートや声かけを行っていました。これは合理的な作戦に見えます。しかし、当時のリンクトインの営業部長は、「更新前ではなく、もっと早く対応できないだろうか」と考えました。
データ分析の結果、サービス申し込みから30日後には、解約リスクが高い顧客を発見することが可能であるとわかりました。具体的にいうと、申し込みから30日後までにツールを使い始めた顧客は、更新率が4倍高かったのです。
そこでリンクトインは、更新前の営業活動に費やしていた人員を、契約直後の顧客に使い方を教えるために総動員しました。サポート内容は、かなり踏み込んだものでした。「〇〇の地域で△△等の言語を使ってソフトウェア開発経験がある人材を探している」という顧客がいたら、その場合の検索方法や候補者へのメール作成をサポートします。候補者から返信が来やすい文例まで作成するのです。こうしたサポートの結果、解約率は激減し、年間数千万ドルの利益につながりました。
リンクトインのエピソードは、問題を早期に発見することの重要性を示唆しています。企業にとって、退職者が出るのは痛手です。新たな人員を補充するのには多額のコストがかかりますし、もし補充しなければ残ったスタッフの負担が増えてしまいます。また、退職者が出れば職場全体の士気も下がります。
「辞めようと思います」と言われた上司は、引き留めに力を注ぎます。私も以前勤務していた会社を退職したい旨を上司に告げたところ、「今の業務だったり給与だったりに不満があるのであれば、改善するから改めて考え直さないか」と説得されました。しかし、こうした努力はたいていの場合無駄に終わります。退職の意思を表明した時点で、考えは固まっていることがほとんどだからです。
退職の希望が出てから動くのではなく、もっと早くから動けば退職率を下げられる可能性があります。そのためには、退職者の意見を聴取することです。引き留めることは諦めて、なぜ退職するのか、本音を聞き取るのです。このとき、退職者が「引き留められている」と感じさせないことがポイントです。引き留められていると感じた相手は、本音を心の中にしまって建前の退職理由しか言わなくなります。
もちろん、どのように工夫しても本音を隠される可能性はあります。それでも、なるべく相手が本音を言いやすい環境を整えてヒアリングすることが重要です。
退職者の退職理由を集めたら、「こういう理由で退職することが多い」という知見ができあがるでしょう。それらの知見をもとに、現職者を観察します。過去の退職者が在職時に見せた兆候が見られたら、退職予備軍として何らかの対応をします。
定期的な1対1の面談も有効です。週1回、テーマを決めない面談をしていると、細かな異変にも気付けるようになります。例えば「ネガティブな発言が増えてきたな」とか「この前辞めたあの人と同じようなことを言っているな」など。
問題が起こってから対応するのではなく、起こる前にその芽を摘むことの重要性についてのお話でした。