私たちが統計数値を見たとき、数字が大きすぎて実感が湧かないことがあります。財務省のホームページによると、日本の借金(普通国債残高)は、2024年度末で約1,105兆円になると見込まれています。とてつもなく巨大な金額であることはわかりますが、実感が湧きません。
このような場合、実感しやすい日常の数字に置き換えることが有効です。2024年度、日本の歳入は約112兆円でした。国債残高は1,105兆円ですから、歳入の約10倍あるということになります。身近な例に例えるなら、世帯年収500万円の家庭で借金が5,000万円あるような状況です。普通に考えると、財政的にかなり厳しいですよね。
もちろん、国の歳入と一般家庭の年収、そして国の債務残高と一般家庭の借金は、性質が異なります。しかし、厳密にはパラレルな比較ではないとしても、年収500万円の一般家庭に例えることで、日本の状況を実感しやすくなったのではないでしょうか。
では次の2つの記述を比較してみましょう。
①ある物理的な制約を正確に計算したところ、その制約は太陽から地球に石を投げて、的から500m以内に命中させるようなものだった。
②ある物理的な制約を正確に計算したところ、その制約はニューヨークからロサンゼルスに石を投げて、的から1.7cm以内に命中させるようなものだった。
①と②の正確性の度合いは同じです。多くの人に2つの記述を読ませたところ、太陽と地球の例を印象的と評価した人は約6割だったのに対して、ニューヨークからロサンゼルスの例を印象的とした人は8割以上でした。太陽と地球の距離の例えは、一般人には体感しづらいものです。ニューヨークからロサンゼルスという距離を、誤差1.7cm以内で命中させるといった方がその正確性を実感しやすいようです。もし日本人を対象に調査するなら「北海道から沖縄に石を投げて誤差1cm以内で命中させる」といえば、その正確性を実感できるでしょう。
大きくない数字であっても、実感が湧きにくい場合があります。ある映画館で売られていたポップコーンには、1袋に37gの飽和脂肪酸が含まれています。多くの人は、このように言われても37gの飽和脂肪酸が体にとってどれくらい良くないのか、想像がつきません。
アメリカの公益科学センターに勤めていたアート・シルバーマンは、ポップコーンに含まれている脂肪についてこのように説明しました。「町の映画館で売られているバターポップコーンには、動脈を詰まらせる脂肪が含まれています。その脂肪量は、ベーコンエッグの朝食と、ビッグマックとフライドポテトの昼食と、ステーキに付け合わせたっぷりの夕食の合計よりも多いのです」
この発表は全米で大反響を呼び起こしました。大手テレビ局や新聞でも大々的に取り上げられました。映画館ではポップコーンの売上が激減しました。「ポップコーン1袋には37gもの飽和脂肪酸が含まれています」と発表していたなら、ここまでの反響はなかったでしょう。それは事実ではあるものの、人々の心にはまったく残らないのです。
何かを語るとき、統計数値を用いることは重要です。ただ、数字だけでは人々の心は動きません。その数字を、実感の湧きやすい例えを使って人々の心に刻み込むことを心がけましょう。