報酬ではなく熟達願望をモチベーションにする

1973年に心理学者のマーク・レッパーらはモチベーションに関する実験を行いました。実験では、被験者である子どもたちを3つのグループに分けて絵を描いてもらいます。

【グループ1】
「よく描けたで賞」という賞状を見せて「絵を描くとこの賞がもらえるんだけど、描いてみる?」と質問して、その後で絵を描いてもらいました。

【グループ2】
絵を描きたいかどうかは質問しましたが、賞については触れませんでした。子どもたちは絵を描いた後で「よく描けたで賞」をもらいました。

【グループ3】
絵を描きたいかどうかは質問しましたが、賞のことには触れませんでした。また、絵を描いた後に賞を与えませんでした。

2週間後の休み時間、教室に絵を描くための用具を置きました。今回は、子どもたちに絵について質問をしませんでした。また、描く指示も出しませんでした。

グループ2とグループ3の子どもたちは、休み時間の間、絵を描き続けました。一方で、グループ1の子どもたちは絵を描いた時間が最も短くなりました。

グループ1とグループ2, 3の違いは「前もって報酬(よく描けたで賞)があると説明していたかどうか」です。あらかじめ「これをしたら報酬があるよ」と説明を受けていた場合、その報酬がなくなるとその行動へのモチベーションが減少してしまうのです。その後の研究によって、この傾向は子どもだけではなく大人にも見られることがわかりました。

人間には「熟達願望」という欲求が備わっています。仕事でも遊びでも「技術を向上させたい」「うまくなりたい」という願望です。専門的な仕事や、新しい技術の習得が必要な仕事をさせる場合、一時的な報酬よりも熟達願望を利用した方が効果的であることがわかっています。

スポーツに夢中になっている人はプロアマ問わずたくさんいます。そういった人たちのほとんどは、単純に「うまくなりたい」という熟達願望がスポーツを続ける最大のモチベーションになっているのではないでしょうか。もちろん「大会で優勝したい」とか「スポーツを通じて付き合いを深めたい」といったこともモチベーションにはなり得ます。しかし熟達願望がなければ長続きはしないでしょう。

うまくなりたいということをモチベーションにゴルフを続けている人に「最高スコアを更新したら5千円上げよう」と言ったらどうなるでしょうか。ゴルフへの熱が冷めてしまうかもしれません。熟達願望に駆り立てられて頑張っている人に、報酬をちらつかせることは逆効果になる場合もあるのです。

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