ここ数日、埼玉県虐待禁止条例の改正案が話題になっています。改正案の内容は、小学校3年生までの子どもの放置や置き去りを禁止するものです。また、虐待を受けている子どもを発見した県民には、通報を義務付けています。
改正案によると、「子どもだけで留守番をさせる」「子どもだけで登下校させる」「公園など、自宅外を子どもだけで遊ばせる」といったことが禁止されることになります。すべて私が子ども時代に経験したことです。おそらく今の時代においても、上記をいずれも経験したことがない子どもは少数派ではないでしょうか。
私が小学生のときは、住んでいるエリアで5人程度のグループを作って、集団登校をしていました。小5、小6くらいの上級生がリーダーだったと記憶しています。下校に関しては、学年や部活動等によって帰宅時間が変わりますから、集団では帰っていなかったと思います。帰宅後は、親が仕事から帰ってくるまで留守番をしたり、ひとりで遊びに行ったり、友達と遊びに行ったりしていました。改正案が採用されれば、これらはすべて禁止となり、通報の対象となってしまうのです。
この案がニュースになった後、瞬く間にネット上では否定的なコメントが溢れました。まとめると、「まったく現実的ではない」ということです。朝は頑張って学校まで送ることができるかもしれません(それでも毎日は相当大変だと思いますが)。
問題は下校のときです。低学年であれば、午後2時から3時くらいには授業が終わります。その時間に子どもを迎えにいって、帰宅後はずっと子どもと一緒にいられる家庭がどれくらいあるでしょうか。厚生労働省が公表している2021年の国民生活基礎調査結果によると、同居の児童のいる世帯は約1073万世帯あって、そのうち76%は父母と子どものみの世帯です。「同居している祖父母が子どもを見てくれる」という家庭は少数派なのです。
父母と子どもだけの世帯の場合、母親か父親が完全に家庭に専念していたとしても、常に子どもを一人にしないというのは簡単ではないでしょう。共働きであれば、なおさら困難です。ひとり親の家庭であればほぼ実現不可能ではないでしょうか。毎日午後2時以降は、ずっと子どもを見ていられる仕事など限られています。
改正の目的は、子どもの虐待を防止することですが、この案で目的を果たすことができるかについても疑問があります。「親が買い物などの用事を済ませるまでの間、子どもを数時間車の中に放置する」「親が旅行で3日間家を空けている間、子ども一人で留守番させる」こういったことがあれば、虐待に当たる可能性が高いでしょう。改正案の条例が施行されたとき、これらの行為の抑止力になり得るでしょうか。
明確なデータがあるわけではないので、肌感覚での予測になりますが、抑止力としては機能しないと考えます。前段のような行為をする親が、「条例違反になるから子どもを置き去りにはしないでおこう」とは思わないでしょう。要するに、改正案は虐待を防ぐ効果が期待できないうえに、普通に子育てをしている親に負担を与えるだけ、ということになると予想されます。
全国からの否定的な声を受けて、案を提出していた埼玉県の自民党県議団は、改正案を取り下げることを明らかにしました。田村団長は「私の言葉足らずで、全国的に不安と心配の声が広がった」とコメントしています。
政治家はこういうときに、絶対に誤りを認めないですよね。「言葉足らず」というと、「本当は価値ある案だったが、ちょっと説明がよくなかったので反対されてしまった」というニュアンスが伝わってきます。「言葉足らず」というならば、言葉を尽くして不安と心配を払拭すればいい話でしょう。それができないから取り下げるということですね。「虐待を防ぐために考えた案だったが、実情に即してない内容だったので取り下げます」と言った方が好感を持たれると思うのですが・・・
とにかく、この案が取り下げられて、今後再提出の予定はないというの話は、全国の子育て世代をほっとさせたことでしょう。