人の振り見てとはいうものの

たいていの場合、ホテルのシングル客室に置かれているバスタオルは1枚だけです。タオルを2枚以上使いたいときは、フロントに電話して依頼する必要があります。ホテルによっては、同じタオルを2回以上使うようにお願いする掲示を浴室に掲げていることもあります。

掲示には環境保護などの名目が掲げられていますが、経費を節約したいというホテル側の思いもあるでしょう。しかし、「環境保護のため」という名目が相手を納得させるだけの効力を持ち合わせているかは疑問です。

ある社会心理学者のグループは、ホテルの支配人に頼んで新しい掲示を掲げてもらいました。そこには環境のことは書かれておらず、代わりに「ほとんどの宿泊客が滞在中にタオルを1回以上再利用している」と書かれていました。この掲示に変更後、宿泊客がタオルを再利用する確率が26%上がったそうです。

このように、人は他の人がどうしているかを見て行動を決めることがあります。社会心理学者のビブ・ラタネらはコロンビア大学の学生たちに協力してもらって、ある調査をおこないました。

学生たちには部屋に座ってアンケートを書いてもらいます。一部の学生は部屋でひとりになってもらい、残りの学生は3人ずつ部屋に入ってもらいました。アンケートの記入中に、通気口から煙が流れ込んできます。煙はどんどん流れ込んできて、いつしか部屋は煙で満たされてしまいます。

部屋にひとりでいた学生のうち、75%は席を立ってこの非常事態を知らせに行きました。では、3人の組はどうだったのでしょうか。実は3人の組には2つのパターンがありました。ひとつは、3人のうち本当の参加者は1人だけで、残りの2人はサクラでした。サクラの2人は煙が流れ込んできても反応しないように仕込まれていました。この場合、本当の参加者のうち報告するための行動を起こしたのは10%だけでした。

3人全員が本当の参加者なのは8組でした。これらの本当の参加者24名のうち、報告のために行動を起こしたのは3人だけでした。割合でいうと12.5%に過ぎません。

特にどうすべきか確証をもてないような状況において、人は他の人の行動を見て自分の行動を決める傾向があるようです。ひとりのときは、参考にすべき他人がいないので純粋に自分の判断に基づいて行動しやすい。一方で、他の人がいるときは「煙が充満している!外に出て知らせないと!」と思っても、他の人が何も行動を起こしていないのを見て「実はたいしたことがないのかな?自分だけ大騒ぎするのもみっともないかも?」と考えてしまうのです。

不測の事態が発生したとき、あなたは周りの人を観察して次の行動を考えるかもしれません。しかし、周りの人もあなたの行動を見ていることを忘れてはいけません。あなたがとりあえず様子見で何もしないでいるのを、他の人が見て他の人も様子見をする。サクラがいない3人の部屋では、そういう様子見の連鎖が起こっていたのでしょう。

もしあなたが危機管理のスペシャリストたちと一緒にいるときに煙が充満してきたら、スペシャリストの行動を見て後に続くのもいいでしょう。ただ、そういうケースは非常にまれです。あなたが「行動を起こすべきだ」と感じたときに、周りの人たちが動いていないとしても、彼らがその状況におけるスペシャリストでない限り自分がすべきだと思う行動を取るべきでしょう。

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