どんどん遠慮がちになる日本語

言語学者の椎名美智氏は、著書『「させていただく」の使い方』で、「最近の大学生は人当たりがよくて優しいけれど、お互いに遠慮しあって本当はつながっていないような気がします」と語っています。

鉛筆一本借りるのにも「まさか鉛筆もう一本持ってたりなんかしないよね?」といった具体にとても気を遣った言い方をするとも書いています。このように、ストレートな言い方を避けることは昔からあったと思いますが、近年はその傾向がより強まっているのかもしれません。

私が思うに、依頼を受ける側のスタンスは今も昔も大きく変わっていないのではないでしょうか。「鉛筆貸して」と言われれば、いつの時代でもたいていの人は快く承諾するはずです。別に今の時代においては、頼まれても断る人が多いということはないでしょう。依頼される方はウェルカムなのに、依頼する側がどんどん遠慮するようになってきたと考えられます。

上記の例に限らず近年の日本語コミュニケーションでは、明確に言うことを避けて、なるべくぼんやりした言い方が好まれる傾向があると感じます。そんな中で、「大丈夫」というフレーズがその守備範囲を拡大してきました。

店で「レジ袋は大丈夫ですか」とよく聞かれます。「大丈夫ってどういうことですか?」と一瞬思いつつも、それを口に出すことはありません。「面倒くさい客に当たってしまった」と思われたくないですからね。「レジ袋を1枚お願いします」あるいは「レジ袋はいりません」と明確に答えています。

(1)「レジ袋は大丈夫ですか」→「大丈夫です」
(2)「こちらでマイバッグにお入れしましょうか」→「大丈夫です」
(3)「ポイントカードはお持ちですか」→「大丈夫です」

(1)~(3)の「大丈夫です」は、ほとんどの人が「不要です。辞退します」という意味でとらえるでしょう。

(4)「窓を開けてもいいですか」→「大丈夫です」
(5)「自転車を貸してもらってもいいですか」→「大丈夫です」
(6)「今日ちょっと残業してもらえませんか」→「大丈夫です」

(4)~(6)の3つは、「承諾します。OKです」という意味でとらえる人が多いのではないでしょうか。同じフレーズが、承諾と辞退というほぼ真逆の意味で使えるというのは不思議な話です。

これに関して、以下のような仮説を考えました。

「あなたのために何かしてあげましょうか」という提案に関して「大丈夫」という場合、辞退の意味となり、「何かしてもいいですか」と許可を求める場合や、「何かしてもらえませんか」と依頼をする場合に「大丈夫」というと承諾の意味になる。

この仮説ですべてのパターンを網羅できるかと言われれば自信はありません。ただ、9割くらいはこの仮説で説明ができそうです。

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