「えーと」「あのー」「うーん」といった、話の間に挟まれる言葉を、言語学用語で「フィラー」と呼びます。フィラーというのは、どれも無意味なものに思えるかもしれませんが、実はそれぞれ異なる役割をもっています。
「えーと」というのは、主に話すべき内容や質問に対する回答を思い出そうとしているときに使われます。「本能寺の変は何年に起こった?」と聞かれたとします。歴史好きの人にとっては常識問題で、即座に「1582年」と答えられるでしょう。学校で習ったはずだけれども、パッと年号が出てこない人もいると思います。そんなとき、「えーと」というフィラーが自然に出てくるはずです。「昨日のお昼は何を食べた?」「最後に帰省したのはいつ?」といった質問をされて、覚えているけどすぐには思い出せない場合には、「えーと」という言葉が使われます。
「うーん」は、適切な回答が出せそうにない、自信がないという場合に使われます。歴史にまったく興味がなく、小学生で習うようなことも完全に抜け落ちている人に、「本能寺の変は何年に起こった?」と聞いたとします。相手は「えーと」ではなく、「うーん」という可能性が高いでしょう。正しい回答ができる自信がないからです。
「人はなんのために生きるのでしょうか」と聞かれた人は、最初に「うーん」という言葉を発するでしょう。この質問に自信をもって回答できる人はほとんどいないからです。
「人はなんのために生きるのでしょうか」
「うーん…子孫を残すためかな…」
上の例では「子孫を残すため」と答えていますが、回答者は自信をもって言っているわけではありません。自信はないが、なんとか答えをひねり出しているのです。ここで「うーん」を「えーと」に置き換えてみてください。違和感を覚えるでしょう。
「あのー」は、話すべき内容や回答は思いついているが、どう伝えるか考えているときに使われます。あなたが営業の仕事をしていて、上司から「今日の商談は絶対取って来いよ」と言われて出かけたとします。商談がうまく行って、契約が取れました。上司から「どうだった?」と聞かれたら、「契約取れました!」と即答するでしょう。
では、商談をしたものの断られてしまったとします。「上司からどうだった?」と聞かれて、「断られました!」と即答はしにくいですよね。「あのー、提案内容自体はよかったと言ってくださったんですが、どうしても今の時期に契約は難しいということで…」といった感じで、断られた理由から話すことになるのではないでしょうか。
商談を断られたケースでは、断られたという事実がパッ出てこない、思い出せないということはないでしょう。断られたことは明確に認識しているのです。しかし、それを上司に伝えづらい。そんなときに出てくるフィラーが「あのー」です。「あのー、断られました」という応答で、「あのー」を「えーと」や「うーん」に置き換えると違和感を覚えるでしょう。
頭の中で何かを考えるとき、「えーと」や「うーん」が出てくることはあっても、「あのー」が出てくることはないはずです。「えーと、この後なにやるんだっけ…」「うーん、困ったな…」という独り言の「えーと」「うーん」を「あのー」と置き換えると変な感じがするでしょう。「あのー」は伝え方を考えるときに使うフィラーなので、原則として独り言で登場することはないのです。
ここまで見てきたように、フィラーにはそれぞれ意味と役割があり、私たちはそれを意識することなく使いこなしているのです。