2人の会話において、「1人が一方的に話をしていて、もう1人はそれを聞いているだけ」という状況は珍しくありません。このような一人語りの場面において、実は聞き手の役割は重要です。
一人語りの場面で、聞き手は「はい」「うん」「ええ」「へえ」「はあ」といった相槌を打ちます。こうした相槌が、一人語りにおいてどのような役割を果たすのかを調べる実験がおこなわれました。この実験では、被験者に「あわや大惨事」という体験談を聞いてもらいます。
一人語りには共通の特徴やルールがあります。多くの場合、いつ語りが終わるかはわかりません。また、語りが終われば、終わったことは明確にわかります。そして、語りが終わったら、聞き手は話の意味を理解したことを示す必要があります。感想まで言えればより望ましいでしょう。「あわや大惨事」というエピソードであれば、聞き手には話が終わったタイミングで、「それは危なかったね」「運が良かったね」といった反応が求められます。
「…ということで、ちょっとタイミングがずれてたら、今私はここにいないかもしれなかったんだ」と、語り手が話を締めくくったにもかかわらず、聞き手が何も言わず沈黙してしまったら、その語りは失敗といえます。また、話が終わってないのに、聞き手が「いやーそれは大変だったね」などと言ってしまったら、それも失敗でしょう。
語り手が一人語りを成功させるためには、聞き手の適切な反応が求められます。怖い話をしていて、「誰もいないはずの部屋からガタガタと音がしたんだ」と語り手が言ったら、聞き手は怖がっている表情で「えっ」といった反応をする必要があります。そこでうっかり笑ってしまったら、語り手は話を続ける意欲を失うでしょう。
実験では、聞き手が本来の役割を果たせなくなるような複数の仕掛けが用意されていました。例えば、語り手が “t” で始まる単語を使うたびに、机の下に隠したボタンを押すように指示された聞き手がいました。この場合、聞き手は話に集中していますが、話の中身はまったく頭に入っていないでしょう。
この指示を受けた聞き手は、反応数が減少しました。通常であれば、聞き手は27秒に1回の割合で、話に結び付く感情表現をするのですが、指示を受けた聞き手がこの種の反応をするのは、12.5分に1回まで激減したのです。
また、このように聞き手の反応が悪くなると、語り手の話の流暢さや質が低下することもわかりました。これは妥当な結果でしょう。エピソードを話しているのに、相手の反応が悪く話に集中していないと感じたら、誰だって不安になります。「このまま話を続けていいのかな」という思いが頭を巡り、語りもグダグダになるでしょう。
この実験結果は、それほど意外なものではないでしょう。ただ、「たぶんそうなるでしょうね」とみんなが思っていることが、データでも示されたという点で意義があると思います。ひとつ思ったのは、この実験で集中力を削ぐ仕掛けをされた聞き手とペアになった語り手は気の毒だなということです。