2014年、組織マネジメントの専門家、エリック・アニシックは56か国のヒマラヤ登山隊による、5千回を超える登山に関するデータを分析しました。アニシックは、登山隊の出身国による文化の違いに注目しました。権威あるものを敬う文化か、そうでない文化か。前者の文化圏では、ヒエラルキー上位の人間に自分の意見を述べることが避けられる傾向があります。一方で、上下関係にかかわらず、積極的に自分の意見を伝えることが奨励される文化圏の国もあります。
アニシックが膨大なデータを分析した結果、権威あるものを敬う文化圏のチームは、死者の数が著しく多かったことがわかりました。そして、この傾向は、単独登山者同士の比較では見られませんでした。
権威ある者を敬う文化圏では、意思決定がトップダウンでなされます。こうした文化圏のチームでは、差し迫った問題についてリーダーに進言することが難しく、その結果として死亡者を多く出してしまうのです。
どんな熟練者でも判断を誤ることはあります。上司や年長者の判断や行動を見て、「いや、それは違うんじゃないかな」と思ったことがある人は多いでしょう。しかし、ヒエラルキー重視の集団では、そこで立場が下の者が声を上げることは難しいのです。進言をしないことで、会社が傾いたり、メンバーの命が危険に晒されるリスクがあるとしても、ヒエラルキーを守ることを優先してしまいます。
ある研究によると、人は不確かな状況に直面すると、支配的なリーダーを支持する傾向があることがわかっています。自分の不安を他人のリーダーシップで穴埋めをしようとするのです。例えば、企業が危機に瀕しているとき、株主は支配的なリーダーを指名する傾向が強くなります。組織内でも、支配的な社員が昇進しやすくなります。
危機的な状況で、強力なリーダーシップを発揮する者がトップに立つのはリスクもあります。状況が複雑になればなるほど、多様な視点が求められます。いくら優秀な人間でも、判断を誤ることがあります。また、どんな人間でも考え方のクセがあります。そこで、多様な視点をもったメンバーからの意見を集めることが重要になってきます。
ここまでヒエラルキーの弊害を中心に話をしてきましたが、ヒエラルキーそのものが悪いわけではありません。通常の組織では、指揮系統が明確な方がうまく機能します。意見がわかれたときに、「この決定に関する責任は自分が負う」という覚悟で、決断ができるリーダーは必要です。
問題はその決定のプロセスにあります。何から何まで自分で決めて、他のメンバーの意見は聞かないリーダーの場合、どこかで大きな失敗に直面するでしょう。メンバーから多様な意見を引き出し、そのうえで責任をもって最終決定をするリーダーは、うまくいく確率が高まるのです。