日本には「明言を避けて、含みを持たせる」という文化があるのかもしれません。以前勤務していた会社に、「いったん」が口癖の上司がいました。会議で今後の方針が決まると「ではいったんこれでいきましょう」と上司は言っていました。「暫定的にこれでいってみるが、変更も有り得る」という意味があるわけではなく、とりあえず「いったん」を付けているだけなのです。その上司に最終決定権があるのに、応募者の採否について「いったん不採用ということで」なんてことも言っていました。当然この決定は覆ることはありません。「いったん確定で」と言っていたこともありました。「じゃあ確定じゃないじゃん」と心の中で思っていました。
顧客に対して「できません」と否定形で応えるのはよくないので、「できかねます」という言い換えることがビジネスの場では推奨されています。他に断言を避ける言い方として「それは難しいです」という表現もあります。意地悪な人だと、「不可能ではないんですね?難しいということは、努力すればできる可能性があるんですね?」などといって相手を困らせるかもしれません。ほとんどの場合、「難しい」というのは「できません」の婉曲表現です。
「皆さんお断りしております」という表現もあります。直接相手を断るのではなく、「他の人に対しては断っています」と伝えて、「だからあなたも…ね?わかるよね?」と理解を促しています。これも意地悪な相手であれば「他の皆さんには断ってるんですね。でも私の場合はどうなんです?」といった反撃をしてくるかもしれません。
「~といったかたちです」というのもよく使われる婉曲表現です。「それはできません」を婉曲的に「それは難しいです」と言い換えて、さらに「それは難しいのではないかなといったかたちです」と婉曲度を増すことができます。文字にしてみると、奇妙に見えるかもしれませんが、ビジネスの現場では違和感なく耳に入ってきます。
「私はこのように思います」という言い方は、断定的過ぎるきらいがあって、ビジネスの現場ではあまり使われません。ぼかす言い方はたくさんあります。「~ではないかとは思います」ーここでのポイントは「は」です。「~と思います」ではなく、「~とは思います」ということで、「全面的にそう思っているわけではない」という微妙な含みが感じられます。
「~というふうに思っております」ーこの「~ふうに」という表現は、特に政治家が多用しているイメージです。政治家が重要な意思決定に際して「~が必要だというふうに思っております」などと語っていると、堂々と「~が必要です」と言い切ってほしいものです。
日本のビジネスシーンにおいて、明確に断定的な表現が用いられることはまれです。だからこそ、重要な場面で明確に断言すると、周囲からはその人が自信ありげに見えて、信頼感が高まるでしょう。