人は興奮すると、体に様々な反応が現れます。心拍が上昇し、注意力が高まり。手のひらが汗ばみ、口が渇き、呼吸が深くなります。興奮を引き起こすのは、自律神経系を支配する原始的な領域です。兵士が戦場に飛び出すとき、大好きなミュージシャンがステージに登場したとき、感動的な演説を聴いたとき、人は興奮します。
興奮状態に関するある実験がおこなわれました。たくさんの電気機器が並んでいる部屋に、男子大学生を入らせます。部屋の中には実験の主催者が入っていて、近くでもうひとり学生を見なかったかと尋ねます。学生が「見なかった」と答えると、主催者はもうひとりの学生を捜すふりをして部屋を出て行きます。その際、学生には「その間、学習と電気ショックに関する論文を読んでおくように」と指示を出します。
頃合いを見て、主催者は同じく実験に参加する女子学生を連れて部屋に戻ってくるのですが、実はこの女子学生は主催者側のサクラです。男子学生と女子学生は横に並んで座り、ふたりのうちどちらかがこの後電気ショックを与えられると説明されます。電気の強さについては、被験者によって「かなり強烈な電気だ」と言われる場合もあれば、「少しピリッとする程度だ」と言われる場合もあります。
主催者はコインを投げて、どちらの学生が電気ショックを受けるか決めます。ただ、実際には電気ショックは与えられません。ここまでのプロセスは、男子学生を怖がらせることが目的なのです。
主催者が準備をしている間、男子学生はアンケートの記入を依頼されます。アンケートで、今どれくらい不安を感じているか、また女子学生にどれくらい魅力を感じているかを書いてもらいます。強烈なショックを予想していた男子学生は、軽いショックを予想していた男子学生よりも、強い不安を感じていました。また、女性に魅力を感じる程度も大きくなりました。その後、男子学生には実験の目的が明かされ、電気ショックは与えられないと告げられます。
人は興奮すると、その背景を知りたいと思います。自分がなぜこんなに興奮しているのか、自分の中で説明をつけようとするのです。これから強い電気ショックを受けるかもしれないと考えている男子学生は、興奮して心拍数が上がります。「なぜ自分はこんなにドキドキしているんだ」と自問自答します。そして、その原因が「隣にいる女子学生が魅力的だからだ」と誤解してしまうのです。
この実験以外の研究では、興奮に限らず様々な感情が、誤った原因推測を引き起こすことがわかっています。自分が担当した仕事がうまくいって、上司から賞賛されたとします。当然、とても嬉しい気持ちになるでしょう。そんなとき、隣の席にいる人と話していたら、「自分がこんなに嬉しい気持ちなのは、隣にいるこの人のおかげだ」と錯覚を起こしやすくなります。たとえ隣の人が、今回の仕事にはまったく関与していなかったとしても。逆に、すごくむしゃくしゃしているときに、近くにいるまったく無関係の人に対して「この人のせいでこんなに気分が悪いんだ」と思いこんでしまう危険もあるのです。