事業をピボットする瞬間

成功した企業が皆、最初のアイデアがうまくいったわけではありません。世界的なゲーム会社になった任天堂は、元々はトランプなどの玩具を作成する会社でした。1970年代にビデオゲーム市場に参入し、1983年にはファミリーコンピュータを発売。その後はハードウェア、ソフトウェアの両方で数多くの世界的ヒット作を生み出しました。

Airbnbは、当初宿泊予約サービスを提供していましたが、のちに個人が空き部屋を貸し出すプラットフォームに転換し、大成功を収めました。MixiはSNS事業として一時期日本で普及しましたが、スマホゲーム事業に参入して一定の成果を収めました。MixiがSNS事業だけにこだわっていたら、市場から退場を余儀なくされていたかもしれません。

情報技術を使った企業は、このような大胆な事業転換がしやすいという特徴があります。一般的に、製造業は事業転換のコストが高くつきます。自動車を作る会社が、家具製造に参入しようと思ったら、原料や製造方法が大きく異なるため、新規で仕入れ先の開拓や機械の購入が必要となります。一方で、情報技術であれば、扱うサービスが変わっても、仕入れや新規の機械購入などのコストはほぼかかりません。

起業家、プログラマー、作家のポール・グレアムは、1995年に美術画廊にオンラインストアを提供する会社「アーティックス」を立ち上げました。しかし、この会社はうまくいきませんでした。

まず、画商は絵をインターネット上に公開して販売したいなどとは思っていませんでした。画廊に陳列されている絵画は、なんだか価値があるもののように見えます。画廊に立ち寄った客が、展示品を眺めていると、小奇麗なスーツに身を固めた画商が「その絵に目をつけるとはお目が高いですね」などと話しかけて、購入までこぎつける…オンラインショップでは、そうした部隊を整えることができません。アーティックスは、サービスを普及させるためにオンラインシステムを無償で提供することを提案しましたが、それすら断られていたのでした。

グレアムは当時を振り返って「今思えばあれほど時間を無駄にしたことはない」と語っています。また、「ウェブサイトは欲しがらない人のためではなく、欲しがっている人のためにつくるべきだと気づいた」と言っています。

グレアムはオンライン画廊サービスに半年で見切りをつけました。そして新しい会社、「ヴィアウェブ」を立ち上げたのです。ヴィアウェブは世界初のウェブアプリでした。このアプリを使うと、誰でもブラウザ上でオンラインアプリを開くことができました。のちにヴィアウェブは、4900万ドルでヤフーに買収されます。これが「ヤフーストア」になったのでした。

グレアムが成功した原因のひとつが、最初のアイデアに固執しなかったことです。オンライン画廊には未来がないと、半年で見切りをつけたのは英断でした。後から見ればそれが正解だったとわかりますが、問題に直面している当事者からはそれがわからないというのはよくあることです。

自分が「行ける!」と思って始めた事業を諦めるのは、つらい決断です。また、それまでに投下した資金や時間が無駄になってしまうように思えます。そういった思いを断ち切って、新しいことにチャレンジするのは勇気がいることです。

グレアムはこのときの経験から教訓を得ました。それは「人がほしがるものを作れ」ということです。

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