「素人」って何の素人?

とあるお笑い芸人が、「芸能人とかアスリートとか以外はSNSやるな。素人が何発信してるんだとずっと思ってる」という発言をして、炎上しています。以前から私は、お笑い芸人がいう「素人」ということばには違和感を覚えていました。

「素人」とは、辞書の定義によると「あることに経験のない、専門的でない人」という意味です。その定義に従うと、「素人」とは相対的なものであるといえます。お笑い芸人から見ると、お笑いの仕事をしていない会社員、公務員、自営業といった人々は素人といえます。

医者はお笑い芸人から見ればお笑い、芸能の世界の素人ですが、医者から見ればお笑い芸人は医者として素人です。人は特定の領域に関してはプロであり、別の領域のプロから見れば素人といえるのです。

以上のことを踏まえて、考えてみてください。「素人がどうのこうの」といったように、素人を題材にした話をするのは、だいたいお笑い芸人ではないでしょうか。同じ芸能の世界でも、歌手や俳優が「この前、素人に話しかけられて~」といった話をしているのを聞いた記憶がありません。芸能以外の世界であればなおさらです。医者や銀行員や公務員が、自分の業界外の人について「素人がどうのこうの」といった話し方はしないでしょう。

「素人」ということばには、その対象を排除し、下に見るニュアンスが含まれます。尊重している相手であれば、それが自分の専門領域に関しては未経験であっても、「素人」などといった言い方はしないでしょう。

お笑いという領域は、歌や芝居といった他の芸能分野と比べると、垣根が低いように見えます。実際、バラエティ番組などに出演しているお笑い芸人を見てみると、特別に面白いことばかり言っているわけではないことがわかります。誰でも思いつきそうな、普通のことを言っている場面の方が多いでしょう。言ったことを文字にして見てみればそこまで面白くなくても、発言者のキャラクターやその場の雰囲気、番組の演出等で面白く感じられるのです。

もちろん、お笑い芸人ならではのセンスがあって笑えるコメントもあるでしょう。また、普通の発言内容でもそれを面白く感じさせることも、お笑い芸人の技術のひとつです。ただ、番組全体を通してみると、「このお笑い芸人でなくても、誰でもできそう」と思ってしまう人もいるかもしれません。

また、お笑い芸人のパフォーマンスは日常でマネしやすいということがあります。流行りのギャグやフレーズは、世間に浸透し、日常会話に織り込まれます。また、「ボケ」「ツッコミ」「フリ」といったことばは元々お笑い界の専門用語でしたが、今では世間一般で違和感なく使われています。

お笑い芸人は、お笑いのプロではない人が「ツッコミが弱いよ」とか、「今のはフリですか?」などとお笑い用語を使うのを好意的に思わない傾向があるようです。特に彼らが、お笑い芸人に対してそういうことをするとカチンと来るようです。

そこでお笑い芸人は、お笑いの仕事をしてない人を「素人」と呼び、自分たちを一線を画します。そこには「素人なのにお笑い芸人のマネをするんじゃないよ。誰でもできそうに見えるけど、私たちは高度な技術を駆使してるんだよ」という気持ちが含まれていると考えられます。

同じ芸能の世界でも歌手や俳優は、門外漢に対して素人呼ばわりするのをあまり聞きません。一般の人がある歌手の歌を街で口ずさんだり、カラオケで歌ったりしても、それにカチンとは来ないでしょう。「私の歌を聞いておけばいいんだ。私の歌をマネするんじゃないよ」とは思わないでしょう。歌を口ずさむ人は、その歌やその歌手が好きだからそうしているのであって、歌手の方もそれを理解しているのです。

一方で、お笑い芸人は、お笑い芸人の手法をマネするお笑い界以外の人に対して「素人が芸人を気取ってるんじゃないよ」と非難する傾向があります。件の「素人が何発信してるんだ」というのも、そういった感覚から発せられたのではないでしょうか。しかしそれは現代の人々には受け入れられず、大炎上という結果になってしまったのでした。

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