前回、ギャンブルにはまってしまったアメリカの主婦の話をしました。今回はその続きです。アイオワ州に住む主婦、アンジー・バックマンはカジノにはまって、とうとう破産してしまいました。
アンジーが破産してから3年後、彼女の父親が他界しました。さらにその2か月後には母親も亡くなりました。これはアンジーにとっては大きな打撃でした。朝起きると「両親はもういない」という思いが押し寄せてきて、これから何をすればいいのかすらわかりませんでした。
アンジーは両親から約100万ドルの遺産を受け取りました。彼女は両親が住んでいたテネシー州に、27万ドルで家を購入しました。テネシー州ではカジノは非合法でした。また、破産前に通っていたカジノには引っ越し先の住所を伝えませんでした。そのようにして、ギャンブルから離れた生活を続けようとしていたのです。
ところが、アンジーはある日、前に住んでいた家の近くを夫と車で走っていて、突然両親のことが頭を駆け巡りました。彼女は過呼吸状態に陥り、夫にこう訴えました。「カジノに行きましょう」
アンジーはカジノのゲートをくぐり、3時間ブラックジャックを続けました。ブラックジャックをやっている間は、不安が消えていました。その3時間で数千ドルを失っていました。
アンジーの家にカジノから頻繁に連絡が来るようになりました。カジノに出かけるときはリムジンの迎えがつくようになりました。また、カジノはアンジーの家族をリゾート地や有名バンドのコンサートに招待しました。コンサートは最前列の席で、会場までの旅費とホテル代は無料です。もちろん、カジノがここまで尽くすのは、アンジーからそれ以上のリターンが期待できるからです。
アンジーのカジノ狂いはどんどんエスカレートしていきます。賭け金は大きくなり、カジノの滞在時間も長くなっていきます。ときには10時間以上ぶっ続けで賭け続けることもありました。ある日は6万ドルの勝ち、別の日は4万ドルの勝ち、また別の日は10万ドルの負け。両親の遺産100万ドルがあったため、彼女は感覚がマヒしていました。
2005年、アンジーの夫の祖母が亡くなりました。葬儀の前の夜、「式の準備の前に頭をスッキリさせよう」と思ってカジノに立ち寄りました。そこで12時間以上賭けて、25万ドルを失いました。いくら大金があるとはいえ、一晩で25万ドルはとんでもない損失です。しかしアンジーはこのことを夫に伝えませんでした。
2006年になると、アンジーの銀行口座にはほとんど金が残っていませんでした。しかしカジノからはしつこく誘いの連絡が来ます。もうお金がないと告げると、「お金がないなら貸しますから来てください」と言ってきたのです。
アンジーは「10万ドル勝ったらやめよう」と思っていました。しかし勝つどころか、持ってきたお金が尽きてしまいました。カジノは彼女に賭け金を貸し出しました。彼女は約束手形に6回署名しました。その合計額は約12万ドル。そのお金も、明け方には消えてなくなりました。7回目の貸し付けはカジノから拒否されました。こうしてアンジーは100万ドルの遺産を食いつぶし、なおかつ10万ドルを超える借金を背負ってしまったのです。
なぜアンジーはここまでギャンブルに狂ってしまったのでしょうか。ある実験で、ギャンブル中毒者の心理が明らかになりました。被験者の半分は病的なギャンブル中毒者で、ギャンブルのために生活が破綻した、あるいはしかけている人たちです。残りの半分は、ギャンブルは付き合い程度で、節度をもって楽しめる人たちです。
被験者はスロットマシンの映像を見せられます。マシンの挙動は、当たり・外れ・ニアミスの3種類です。ニアミスは、あと少しで3つの絵柄が揃いそうになりますが、ギリギリで外れます。被験者は一切お金を賭けていないので、当たりが出ようが外れがでようがお金を得ることも失うこともありません。
映像を見ているときの被験者の脳波を調べたところ、ギャンブル中毒者は当たりの映像を見たとき、一般人よりも報酬を得たときに反応する脳の領域が、より活発化しました。さらに特徴的なのは、ニアミスのときの反応です。一般人はニアミスの映像を見たとき、負けの映像を見たときと同様の反応でした。惜しくても負けは負け、と理解できているようです。
ところが、ギャンブル中毒者はニアミスのときも当たりのときと同様の反応を示しました。「惜しい。あと一歩」という映像を見るだけで、熱くなってしまいます。そして「流れは来ている。もうちょっとで当たりを引ける」と、さらにお金をつぎ込んでしまうのです。