前回に続いて、『「質問」の哲学』に書かれていたエピソードを紹介します。核心に踏み込む質問をするのは、勇気が必要です。初対面や、まだ知り合って間もない相手に世間話として、「結婚はされていますか」と聞くことは、それほどおかしなことではありません。しかし、「いえ、してません」と返答があったときに「なぜ結婚しないのですか」と聞くのは勇気がいるでしょう。
あなたが職場で研修を受けているとします。研修で説明があった内容について、不明点を訪ねたり、より詳しい説明を求めたりするような質問をするのは普通のことでしょう。しかし、「そもそもこの研修自体に意味はありますか」と質問するのは、なかなか難しい。
『「質問」の哲学』では、リーダーシップコーチのモニク・リンダースの経験が書かれていました。彼女は「新しいリーダーシップ」というセミナーに参加していました。研修部屋では、講師がパワーポイントのスライドを使って講義をしています。スライドには、グラフや財務数値が掲載されています。モニクは困惑しました。このプレゼンのどこが「新しいリーダーシップ」と関係があるのだろうか。周囲を見回しましたが、みな平然とした顔でプレゼンを聞いています。
15分後、彼女は勇気を出して手を挙げ、自分が正しいセミナーに参加しているか講師に尋ねました。講師は書類をめくったあと、恥ずかしそうな顔でプレゼンの内容が間違っていたことを認めました。他の参加者は、安堵のため息をつきました。そのうちのひとりは「ヘンなプレゼンだなってずっと思ってたよ」と言いました。
モニクも質問をするときは心臓がバクバクしていたそうです。私も同じ立場だったら、「これって本当にリーダーシップのセミナー?」と思いつつも、質問をためらっていたでしょう。質問した結果、「ここからリーダーシップの話につながるんです」と講師があきれ顔で言ってきたら…と思って、質問する勇気が出なかったでしょう。
このセミナーでは、モニクが勇気を振り絞って革新的な質問をしたおかげで、その場にいた参加者全員の貴重な時間を守ったといえます。
今回の例に限らず、核心に迫る質問をするのは簡単ではありません。「無神経なやつ」「空気が読めないやつ」というレッテルを貼られるリスクもあります。もし状況が適切であり、相手が質問に答えてくれる気配を感じたなら、思い切って踏み込んだ質問をしてみましょう。当たり障りのない、表面的なコミュニケーションではない、より深い関係を築くきっかけになるはずです。