小説を読むと他人への理解力が高まるのか

他者の視点から考える力を養うのに、小説を読むのがよいという説があります。小説には様々な人物が登場します。年齢・性別・性格・生い立ちなどが、自分とは異なる登場人物の心情を考えることによって、客観的に物事をとらえる能力がつくというわけです。

雑誌『サイエンス』において、小説を読むと他人の考えや感情への理解が向上するかどうか確認した研究が紹介されていました。参加者は小説の要約や、短編小説を何本か読み、その後、目から心を読むテストなどに挑みました。目から心を読むテストとは、人間の両目のアップ写真を見て、その人の感情を選択肢の中から選ぶというものです。

実験の前後で比較して、実験後はテスト結果が有意に向上しました。この実験結果は、当時大きな反響がありました。ところが、後になってこの研究には再現性がないことが判明しました。別の実験で、フィクション作品を読んだ後に同様のテストを受けても、他者への理解力が向上するという結果が得られなかったのです。

それでは、小説を読むことは他者への理解の向上にはつながらないということなのでしょうか。私はそういうわけではないと考えています。この実験における問題点は、作品を読む時間が短すぎるということです。短編作品を2~3本読んだくらいで、急に能力が向上するというのは無理があります。

また、フィクションにおける人物像やストーリーは、通常ひとりの作者が考えたものです。35歳の既婚男性が、家族を守るために人をあやめる場面において、その意思決定を下す過程というのは作者の想像の産物です。実際にそういう体験をした人の思考過程とは異なっている可能性があります。仮にそれが作者の実体験だったとしても、読者はある1人の殺人者の思考過程を知るに過ぎません。

フィクション作品を通じて他人への理解力を高めるには、継続的に様々な作品を読み続ける必要があるでしょう。同じような傾向の作品ばかり読んでいては、偏りが出るでしょうから、多様な作者、作風の作品を読んだ方が、より他人への理解力が高まると考えられます。

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