旧ソ連の作家、アレクサンドル・ソルジェニーツィンは著書『収容所群島』で、当時のソ連の強制労働収容所の様子などを詳細に記述しました。『収容所群島』で、スターリンの粛清がどれほどのものだったかがうかがい知れるエピソードがありました。
1930年代、モスクワ州で開かれた共産党の地区大会での出来事です。大会で、スターリンに敬意を表することを求める提案が出されました。出席者たちは、一斉に立ち上がって拍手を始めました。出席者の挙動は、大会中ずっと見張られています。ここで拍手をしないようなことがあれば、たちまち逮捕されてしまいます。
5分経っても拍手は鳴りやみませんでした。出席者の手は痛み出しました。持ち上げていた腕も疲れてきました。それでも誰も拍手をやめませんでした。諜報員たちが「誰が最初に拍手をやめるか」を見守っていたからです。
10分経過しても誰も拍手をやめません。11分経過…。ついに製紙工場の工場長が拍手をやめて、椅子に腰を下ろしました。それを見た他の参加者たちも、次々に拍手をやめて着席しました。その日の夜、秘密警察が工場長を逮捕し、10年の期限で強制収容所に送ったのでした。工場長を尋問した秘密警察の人間は、「絶対に最初に拍手をやめるな!」と注意したそうです。