かつて、情報を大衆に届けるにはマスメディアの力が必要でした。ある企業の不正を告発したければ、新聞社やテレビ局に情報を持ち込んで、ニュースとして取り上げてもらわなければなりませんでした。情報を持ち込んでも、ニュースとしての価値がないと判断されれば、不正は表に出ることはありません。ニュースとしての価値はあるが、どこかからの圧力によってボツになる可能性もあります。個人で情報を拡散できるのは、政治家、著名人など一部の人間に限られていました。
ソーシャルメディアの発達により、今は名もなき個人が社会を揺るがすような発信をすることも可能になりました。2010年9月7日、尖閣諸島で中国の漁船が衝突する事故が発生しました。漁船衝突時の動画は、中国側への配慮から非公開になっていました。しかし、同年11月4日、事件発生時に海上保安官が撮影していた44分間の動画が、YouTube上で公開されました。
投稿された動画は、翌日午前7時40分頃、投稿者によってアカウントごと削除されました。しかし、削除前に視聴者がダウンロードしたとみられる動画が各所で大量に拡散されました。YouTubeに動画を流出させた海上保安官は、「映像が入ったSDメモリーカードをCNN東京支局へ郵送したが、放送されなかったのでYouTubeへ投稿した」と供述したとされています。
ソーシャルメディアがない時代であれば、事故発生時の映像は国民の目に触れることはなかったでしょう。また、いったんソーシャルメディアに情報が流れてしまうと、おおもとのデータを削除しても拡散は止まらないという特徴があります。
ソーシャルメディアの発達には悪い側面もあります。悪意をもった虚偽の投稿や、一部を切り取った誤解を招くような投稿も、世間に拡散する恐れがあります。様々な店舗や、各種サービス提供者は、悪意のあるレビュアーの脅威に晒されています。
Googleでは、いろいろな店舗のレビューを書き込むことができて、誰でもそれを閲覧可能です。その店に行ってもいないのに、「注文で店員を呼ぶと面倒くさそうにやってきた。出てきた料理は冷めきっていてがっかりした」と書くこともできます。しかし、そのユーザーが本当にその店に行ったかどうかは容易には確認できません。名誉棄損等、法律に抵触する可能性があるレビューであれば、店側がレビューの削除やレビュアーの情報開示請求も可能でしょう。しかし、上に挙げた程度の内容であれば、店側が削除要求しても対応してもらうことは難しいのではないでしょうか。
「スープにゴキブリが入っていた」と、写真付きでネットに投稿があったとします。実は客が持参したゴキブリをこっそり入れたものだったとして、後でそれが証明されたとしても、店側は一定のダメージを免れません。今は書き込み1つで店や、その店を運営している経営母体が潰れかねない時代であり、その意味では本当に「お客様は神様」になってしまったのかもしれません。
一部の人は、何かあったらすぐソーシャルメディアに投稿しますが、これはよくない傾向だと思います。中年くらいの男性が優先席に座っている写真を、ソーシャルメディアで見たことがあります。男性にはボカシが入っていました。その投稿には、優先席に座っている男性を非難するようなテキストメッセージが添えられていました。
その男性が健康であるかどうか、見た目だけでは判断できません。外見ではわからない疾患や障害を抱えている可能性もあります。立っているのがつらいくらい体調がよくなかったということも考えられます。そういった可能性も考慮せず、「健康なのに堂々と優先席に座っている!」といってソーシャルメディアに晒してはだめでしょう。仮にその男性が完全に健康体だったとしても、勝手に撮影してソーシャルメディアに晒すのはよくない行為です。場合によっては、名誉棄損やその他不法行為に該当する可能性もあります。
ソーシャルメディア上の書き込みを見るときは、すぐに鵜呑みにしないこと、書き込みをする立場のときは、「本当にこの書き込みをしていいのか?」と立ち止まって考えることが重要でしょう。