自己成就予言の正体

社会学者のロバート・マートンは「自己成就予言」という言葉を提唱しました。マートンによると、自己成就予言の第一段階は今起こっている状況を誤って解釈することから始まります。すると、その誤った解釈が「正しい」という前提で人々は行動します。その数が一定数に達すると、最初は誤った解釈だったものが現実のものになることがあるのです。

トイレットペーパーが不足するという噂が流れると、一部の人はその噂を信じてトイレットペーパーを買いに行きます。すると、本当にトイレットペーパーが不足し始めます。そうなると買いだめする人がどんどん増えていって、トイレットペーパー不足が現実のものになります。

ある実験で、男子学生と女子学生に対して数学のテストが行われました。簡単な問題では、男女で成績の差はほぼ同じでした。しかし、問題の難易度が上がると、女子の点数は男子よりもかなり低くなりました。別の学生で同じテストをしたのですが、このときは問題を渡す前に「このテストは通常、男女で成績の差は出ない」と伝えました。すると、難しい問題でも男女で点数の差はなくなりました。

「女性は数学が苦手」という偏見は、世界共通のものであるようです。女子学生はその偏見の影響を受けて、悪い意味で自己成就予言を体現してしまいました。しかしテスト前に「男女で点差はつかない」という情報を得ることによって、偏見が打ち消されたのです。

経済の世界でも自己成就予言が発生しています。皆が「この会社の株価は伸びる」と信じることによって、株価は上がります。逆もまた然り。

2010年、2枚のピザが1万ビットコインで購入されました。初めてのビットコインによる取引でした。そのときのビットコインを2025年5月26日現在まで保有していれば、1600億円以上の資産になっていました。

ビットコインは仮装通貨であり、現実の紙幣や貨幣ではありません。ネット上にしか存在しない通貨が途方もない価値をもっているのは、皆がそれだけの価値があると信じているからです。そして皆が「ビットコインはもっと価値が上がる」と信じ続けたから、1ビットコイン1600万円まで高騰したのです。

人間関係でも自己成就予言が起こります。あなたが相手のことを「イヤな奴」と思ったら、その相手に冷たい態度を取るようになります。そうすると、相手はあなたに対してよくない印象を抱きます。その結果、相手もあなたに冷たい態度を取ります。あなたが考えた通り、相手は「イヤな奴」になるというわけです。

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