世の中に起きる現象のうち、あなたがコントロールできることはごくわずかです。あなたが勤める会社の将来、株価、景気などは、あなたが何をやってもその影響は微々たるものです。しかし、ほとんどの人は個人ではコントロールが及ばないことでも、自分ならコントロールできると思いこんでしまうものです。
例えば、くじ引き。5本中1本当たりが入っているくじがあって、5人が順番に引いていきます。くじを引く順番にかかわらず、当たりを引く確率は全員同じで20%です。もしあなたが、なるべく早い順番でくじを引きたいと考えるのであれば、あなたは自分には当たりを引く力があると信じているということになります。
1975年、エレン・ランガーによってギャンブルに関する実験がおこなわれました。あるギャンブルでは、2人が向かい合って共通のカードの山から1枚を選びます。次に、少額のお金を賭けて、それぞれのカードを見せ合います。カードの数が大きい方が勝ちとなります。勝者は賭け金を獲得し、歯医者は賭け金を主催者に支払います。このゲームの勝敗は、完全に運で決まります。技術や駆け引きが入り込む要素はありません。
実は2人の対戦者のうち1人は、主催者が用意した俳優です。俳優は2種類の人間を演じます。1つは臆病者です。臆病者は遅刻をしてきます。体に合わないダサいジャケットを着ていて、終始落ち着きがない様子です。もう1つは自信家です。自信家は、時間通りにやってきます。身体にフィットした良いジャケットを着て堂々と振る舞い、自分から会話を切り出します。
被験者は、相手が臆病者だと大きく賭け、自信家だと賭け金が小さくなる傾向がありました。被験者は、どんなカードを引くかは完全にランダムであることは知っています。しかし、対戦相手が強そうか弱そうかで賭け金が変わってしまうのです。
この実験結果については、以下のような解釈が考えられます。まず、被験者に限らず人は誰でも、コントロールできないものでもコントロールできると思いこみます。これをコントロール幻想と呼びましょう。実験で出てきたゲームにおいても、「自分なら強いカードを引ける」というコントロール幻想を持ちます。
対戦相手が臆病者だった場合、相手が持っているコントロール幻想は強くないと判断できます。そうすると、自分の幻想の方が強いということで、強気に出られるのです。一方で、対戦相手が自信家だった場合、相手のコントロール幻想が自分より強く感じます。そうなると、「自分のコントロールする力よりも相手の方が強いかもしれない」と考え、慎重になるのです。