多くの人は、「人を助けると、助けた相手から良い印象をもってもらえる」という誤解をしています。もちろん、助けてくれた相手に対して、好印象を抱くことはあります。しかし、そうでない場合もあるのです。
あなたは誰かに助けられたとき、助けてもらった相手に嫌悪感を抱いたことはないでしょうか。自分は誰かに助けられるような状況ではないと思っているときに、助けの手を差し出した相手がいたとします。無下に断るのも悪いので、あなたは助けを受け入れました。後になってあなたは、「私は助けが必要なほど無能ではない。あいつは私を見くびっているのか?」と思うことでしょう。
自分の能力不足で、誰かの助けが必要になったとします。その人のおかげで、無事乗り切りました。後になってあなたは、「ひとりで対応できないなんて、私はなんて無能なんだ」と自己嫌悪に陥るかもしれません。そして、「こんなみじめな気分を味わうハメになったのは、助けを申し出たあいつのせいだ」と逆恨みする可能性もあります。
好意をもってもらいたい人がいたら、その人を助けるのではなく、その人から助けてもらう方が得策です。人は自分が助けた相手に好意を抱く性質があるのです。
このことを示す実験が、1960年代におこなわれました。実験において、被験者の大学生は質問に答えて、正解数に応じて報酬が与えられます。問題を出題する試験官は、学生たちに対してひどく不愛想にふるまいます。「同じ説明を繰り返したくないので、よく聞くように」などと、冷たくぶっきらぼうな話し方をします。
被験者は皆、すべての質問に正解するように仕組まれています。質問が終わった後、被験者は全問正解分の報酬を受け取ります。ここまではすべての被験者に共通なのですが、この後の流れは3種類にわかれます。
①報酬を受け取った後、アンケートへの回答を求められる。アンケートには試験官への印象を尋ねる質問が含まれている。
②報酬を受け取った後、アシスタントから「学部の予算が不足しているので、報酬を返してもらえませんか」と依頼される。ほぼ全員が返金に同意した。その後、①と同様のアンケートへの回答を求められる。
③報酬を受け取った後、試験官から「学部の予算が不足していたため、私が自費で報酬を用意していました。申し訳ないが、報酬を返してもらえませんか」と依頼されれる。ほぼ全員が返金に同意した。その後、①と同様のアンケートへの回答を求められる。
①(返金依頼がなかったグループ)の試験官に対する評価は、12点満点で4.8点でした。②(アシスタントから返金依頼を受けたグループ)の評価は、4.0点でした。受け取った報酬を返せと言われたのですから、①より評価が低くなるのは自然でしょう。
しかし意外なことに、③(試験官から直接返金依頼を受けたグループ)の評価は7.6点と、3つのグループの中で最も高くなりました。この実験は、報酬の額を変えて複数回行われたのですが、返金額が大きくなるほど試験官の評価が高くなることがわかりました。
この実験結果は、認知不協和という心理学用語で説明できます。認知不協和とは、自分の考えや行動に矛盾があるときに感じる不快感やストレスを意味します。
実験では、試験官は被験者に嫌われるようにあえて不愛想にふるまいました。その後、試験官から頼まれて、受け取った報酬を返金しています。つまり、被験者は試験官を助けたということになります。ここで被験者に認知不協和が発生します。嫌な奴と思っていた試験官の頼みを聞いてしまったためです。通常、私たちは嫌な奴と思っている相手に対しては、親切に対応しません。
このとき被験者は、自分の中で発生した矛盾を解消したいという気持ちが生じます。とはいえ、「お金を返した。親切にした」という事実は変えられません。そうなると、「試験官はいやなやつだ」という評価を変えるしかありません。「最初は嫌な奴だと思っていたけど、私が頼みに応じて返金したということは、実はいい人なんだ」と考えることで、矛盾を解消しているのです。
このことからわかるように、困ったときに助けを求めても、その相手からの評価が下がる心配はありません。むしろ、助けてもらったうえに、その相手から好印象をもってもらえるチャンスなのです。
また、誰かから「手伝いましょうか?」とか「これ、よかったら受け取ってください」と言われたら、実はそれが不要だったとしても、ありがたく受け入れるべきです。そうすることによって、あなたはその相手から前にもまして好意を抱かれるでしょう。