IBMは1911年に設立された企業です。当初はパンチカード機器で、その後はコンピューター関連事業で成功を収めました。1960年代に、IBMはメインフレームの新シリーズ、システム360をリリースしました。リリースの翌月には1000を超える注文が入り、躍進のきっかけとなりました。
大企業になったIBMには、官僚主義がはびこり始めました。例えば、開発チームが問題の解決に必要な装置の部品を購入するためには、2か月近く待って、30名以上の管理者の署名を集める必要がありました。こうした官僚主義・大企業病に侵されたIBMは、80年代頃から失速し始めました。
1993年、アメリカン・エキスプレスなど名だたる企業のCEOを歴任してきたルー・ガースナーが、IBMのCEOに就任しました。ガースナーは、IBMが初めて外部から登用したCEOでした。
ガースナーは、IBMの復興のために、その文化を変えようとしました。しかしIBMのような、長年にわたって発展してきた巨大組織の文化を変えることは容易ではありません。例えば数か月といった短期間では不可能です。何年もかかる根気が必要な作業です。
IBMには、重要な意思決定については、重役が一人でも反対したら否決されるというルールがありました。また、ガースナーが何か指示を出しても実行されないということが頻発しました。指示をした役員に「なぜやっていないのか」と尋ねたところ、「指示ではなく単なる依頼だと思った」とか「あの指示には賛成できなかった」といった答えが返ってきました。
会社組織でそんなことあり得るのか、と驚くような答えです。誰かに何かを指示して何の異論もなければ、それはじきに実行されると考えるのが普通です。指示された側が内心で賛成できなかったからといって、指示が無視されてしまっては組織の運営ができなくなります。
当時のIBMには、CIOが128人もいました。CIOとは、「最高情報責任者」という意味です。128人もいたのでは、最高でもなんでもないでしょう。IBMは世界中に120を超えるデータセンターを所有していたのですが、1軒ごとにCIOが置かれていたのです。ガースナーはデータセンターを3か所に削減し、IT部門を縮小しました。それによって20億ドル以上の経費削減に成功したといわれています。
IBMには変化を忌み嫌う文化がありましたが、トップダウンの改革によって少しずつ変化が訪れました。率先して改革を進めようとする社員が、各所で現れました。そうした社員に影響を受けて、周りの社員も意識が変わり始めたのです。
長い年月を経て培われた文化は容易に変えられません。数か月やってみて、「思ったより抵抗が大きかった」といって諦めていては、改革を成功させることは難しいでしょう。絶対にやりきるという強い意志をもって、何年も継続することが重要なのです。