「自分のことは自分が一番わかっている」とよく言われます。しかし私たちは意外と自分のことをわかっていません。私たちの記憶というのは不完全ですが、その不完全さが自己認識に影響を及ぼします。
「あなたがこれまで行っていた、自己主張の強さを表すエピソードを3つ挙げてください」と言われたとします。「会議で『A案で行こう』という雰囲気になったが、B案の方がいいと思ったのでB案の良さを主張した」とか、「電車でマナーの悪い客がいて、他の乗客は見て見ぬふりをしていたが、自分ははっきりと注意した」といったエピソードを思い浮かべるかもしれません。多くの人は、3つくらいであれば思いつくのではないでしょうか。では、エピソードを10個挙げてくださいと言われたらどうでしょうか。10個となると、途中で詰まってしまうかもしれません。
ある実験で、被験者は2つのグループに分けられました。ひとつのグループは、自己主張の強さを表す過去のエピソードについて、6個挙げるように指示されます。もうひとつのグループは、12個挙げるように指示されます。どちらのグループが、「自己主張が強い」という自己認識が高まったと思いますか。
実は、6個挙げるように指示されたグループの方が、「自己主張が強い」という自己認識が高まったという結果になりました。どんなに自己主張が強い人であっても、それを示すエピソードを12個も挙げることは困難です。7個とか8個くらいで終わってしまったとき、その人は「自己主張の強い人間なら12個くらいは簡単に思い出せたはず。思い出せなかったということは、自分は自己主張が強い人間ではないんだ」と考えたのです。
「自分はダメな人間だ」と卑屈になっている人がいるとします。そう思いこんでいる人に対して、「そんなことないよ。あなたは素晴らしい人間だよ」といってもあまり効果はないでしょう。そんなときは上に挙げた例を応用してみましょう。「じゃあダメ人間ということを示すエピソードを12個挙げてみて」と言ってみるのです。
どんなダメ人間でも、そう言われてパッと12個のエピソードは語れないでしょう。そうすると、「スラスラエピソードを話せないということは、自分はそこまでダメ人間じゃないんだ」と思い直してもらえることでしょう。
ただ、万が一12個のエピソードが流れるように語られてしまったら?そのときはダメ人間という自己認識が強化されてしまうかもしれません。