人は不確かな将来よりも、目先の快楽を選ぶ傾向があります。多くの子どもにとって、勉強することは苦行です。友達と遊んだり、ひとりでゲームをしたりする方が楽しいでしょう。遊ぶのを我慢して勉強に勤しめば、将来の選択肢が増えるでしょう。しかし、勉強を頑張っても必ず輝かしい未来が待っているとは断言できません。一方で、仲のいい友達と街に出かければ確実に楽しいことはわかっています。遊びに行くという誘惑に負けて、勉強を放棄する子どもが多い所以です。
食べ過ぎ、飲み過ぎに注意して、栄養バランスのよい食事をしていれば、健康な体を維持できて、将来病気に苦しむリスクは減るでしょう。しかし確実にそうなるとはいいきれません。人一倍健康に気を遣っても大病に苦しんだ人はいくらでもいます。一方で、チーズたっぷりのピザをビールで流し込めば、確実にその瞬間は幸せを感じられるでしょう。
目の前の快楽に流されずに、将来を見据えてやるべきことをできる人は、自己管理能力が高いといえます。しかし残念ながら、自己管理能力が高い人が必ず幸せな人生を送れるとは限りません。
2015年、ストレスが健康に及ぼす影響などを研究しているグレゴリー・E・ミラーらによって、自己管理能力と健康の関係について調査がおこなわれました。
研究対象となったのは、アメリカジョージア州在住のアフリカ系アメリカ人の若者グループです。まず、彼らが17~19歳くらいのときに、自己管理能力の測定がおこなわれました。その後、ミラーらは数年にわたって、彼らがどんな人生を歩んでいったか調査しました。
自己管理能力が高かった子は、22歳で薬物や暴力などの違法行為に手を染める確率が低かったのです。これは「それはそうだろうな」という結果でしょう。自分を律する能力が高いから、一時の誘惑に負けなかったということです。
もうひとつの発見は、我々の直観に反するものでした。自己管理能力が高かった子は、青年期において細胞に老化の兆候が見られたのです。また、心血管系の疾患にかかるリスクが高いという結果も出ました。
この結果に関して、以下のような原因が考えられます。自己管理能力が高い人は、目の前に困難が立ちはだかっても諦めずに克服しようと頑張ります。しかし今回調査対象となった若者たちは、社会的、経済的に不利な状況にある家庭で育っています。そうした若者たちには、頑張っても頑張っても報われないという状況がつきまといます。
彼らは絶えず困難に立ち向かうという生活を続けていて、その間ずっと高いストレスを受けています。自己管理能力が低い人であれば、目の前の壁を見てすぐ逃げ出すでしょう。その場合、壁を超えた先の世界を見ることはできませんが、ストレスからは解放されます。自己管理能力が優れている人は、その能力の高さゆえに強いストレスにさらされてしまうのです。