『マネーの拳』(三田紀房 作)という漫画の中で、実業家の塚原は儲かる商売の三原則を説いています。
儲かる商売の三原則
・設備投資があまりかからない
・売上が季節に左右されない
・商品のロスが少ない
何か商売を始めるというとき、飲食業を思い浮かべる人は多いでしょう。しかし、飲食業は上記の三原則に反しています。飲食業を始める場合、厨房設備や備品、調度品で多額の投資が必要になります。また、一般的に飲食店は季節によって売上が大きく変動します。飲食業は食材のロスが大きいのも特徴です。このように、飲食業は構造的に儲かりにくいものなのです。それなのになぜ飲食業に参入する人は後を絶たないのでしょうか。
その理由として、馴染み深い業態であるということが挙げられます。日本に生まれ育った人であれば、大人になるまでにある程度飲食店を利用することになるでしょう。そのため、自分が飲食店を始めるならこんな店にしたい、といったことを具体的にイメージすることが可能です。しかし、見るとやるとでは大きな違いがあります。未経験から飲食店を立ち上げたオーナーは、そのギャップに苦しむことになります。
私の実家は散髪屋です。そんなに流行っているようには見えませんでした。ちらっと店を覗いたら、だいたい客はいないか、いても一人くらいです。それでも生活に困るようなことはないし、定期的に家を増改築するくらいの余裕はありました。子どもの頃は「なぜそんなに客が来てないのにやっていけるんだろう」と疑問に思っていました。
大人になってから気付いたのですが、散髪屋というのは利益率が高い業態なのです。通常のカットが3000円だとすると、その3000円は散髪屋の技術料です。何かを仕入れて売るわけではないので、3000円が丸ごと利益になります。家族経営で従業員を雇わなければ、人件費もかかりません。
悪天候で飲食店に客が来なかった場合、その日に消費期限を迎える食材は全部廃棄になります。散髪屋であれば、客が来なくても売上が上がらないだけで、何かを廃棄する必要はありません。
このように、技術や知識を売り物にして在庫を抱えない商売というのは利益率が高くなります。ただし、従業員を雇うとその人件費がランニングコストになります。従業員を雇わなければ、ランニングコストを抑えることができますが、売上の上限が発生します。店主ひとりでやっている散髪屋は、ひとりでカットできる人数×単価が売上の上限となります。
弁護士やコンサルタントは、知識やノウハウが売り物で、原価がかかりません。したがって儲かる商売と言えますが、売上には限界があります。稼働できる時間×単価が売上の上限となります。散髪屋よりも単価ははるかに高いのですが、売上に上限があるという意味では同じ部類です。
複製コストがほぼゼロの商品を扱うと、自分の稼働時間を超えて売上を上げられます。具体的にいうと、本・映画・映像や音楽などのコンテンツや、コンピューターのプログラムです。講演会の講師は、現実的に1日1件がせいぜいでしょう。しかしその内容を本にして売れば、1回の講演料をはるかに上回る売上を手に入れる可能性があります(もちろん、まったく売れない可能性もあります)。
多くのスタートアップ企業が、ITサービス業を選ぶ理由もそこにあります。いったんプログラムを作ってしまえば、それを複製するコストはほぼゼロです。多くの人が「使ってみたい」と思うようなプログラムを作って売れば、売上がそのまま利益になります。そして散髪屋・弁護士・コンサルタントと違って、販売者が寝ている間も売上が上がり続けるのです。
このようにITサービス業は、莫大な利益を生む可能性を秘めています。それでも多くのIT関連のスタートアップ企業が、失敗して消えています。人々が使いたいと思うようなサービスを提供できなかったとか、必要以上に人員を増やしてしまった、といったことが原因です。儲かる可能性はありますが、必ず儲かるとは限らないのが世の道理です。