今から30年ほど前、ジャレド・フォーグルという大学生がいました。彼の体重は193kg、ズボンのウエストは150cmありました。ジャレドが授業の履修登録をするとき、教室の椅子に座れるかどうかを基準に決めていました。また、彼には隣が空いている駐車スペースが必要でした。隣に車が止まっていると、自分の体が大きすぎて外に出られなかったのです。
ジャレドは太り過ぎて血液の流れが悪くなり、体内に液体がたまる浮腫を発症していました。浮腫は糖尿病や心臓病につながるリスクもあります。医師であるジャレドの父は、息子に今のままでは35歳まで生きられないだろうと警告しました。
ジャレドは減量をしようと心に誓いました。そんなとき、大手サンドイッチ店のサブウェイの「7アンダー6」というキャンペーンを目にしました。これは脂肪含有量が6g以下の7製品を売り込むものでした。ジャレットは昼食にはサブウェイの野菜サンド、夕食にはターキーサンドを食べるという自己流のダイエットを始めてみました。
サブウェイダイエットを始めて3か月経過したとき、ジャレドの体重は150kgになりました。40kg以上も減量できたのです。そこからは通学の際にバスを使わずに歩いたり、エスカレーターに乗らずに階段を使ったりするようにしました。体重が190kg以上あったときは、重すぎてそこまで歩くことができなかったのです。
ジャレドのダイエットは、大学新聞などで話題になりました。それを目にしたサブウェイのフランチャイズ店オーナーは、「これは使えるのでは」と思い、サブウェイの広告を担当する制作ディレクター、リチャード・コードに記事を見せました。
コードはジャレドのダイエット物語をサブウェイのCMに使おうと考えました。ところが、サブウェイの顧問弁護士がこのアイデアに懸念を示しました。サブウェイでダイエットに成功したというCMが、医学的な主張とみなされると法的責任が生じるというのです。CMでは「サブウェイはこのダイエットを推奨しません。医師に相談してください」という一文を添えることで、問題を回避しました。
様々な障害を克服し、2000年1月1日にCMが流されました。CMでは、体重193kg、ウエスト150cmあったジャレドが、1日2食サブウェイで食事をして、さらにウォーキングをすることで体重が82kgまで減ったことを紹介しました。最後に「誰でも効果があるわけではありません。まず医師に相談してください」という注意を添えて。
このCMは大反響を呼び起こしました。このCMが放送された後、サブウェイは2000年に18%、2001年に16%の売上の伸びを記録しました。同業他社で伸び盛りのチェーンでは年率7%程度の伸びでした。
サブウェイがやっていた「7アンダー6」だけでは、ここまでの影響はなかったでしょう。脂肪分6g以下の7製品というキャンペーンは、確かに健康を気にする人たちに一定のアピールはすると考えられます。しかしそこには物語がありません。人はデータではなく、物語に心を動かされるのです。
体重193kg、ウエスト150cmの太った男が、サブウェイを食べて歩き回るだけで劇的に痩せる。非常にインパクトがある物語です。ジャレドが痩せたのはサブウェイのおかげとは言い切れません。サブウェイを、自炊で健康的な食事に置き換えてもダイエットは成功していたでしょう。だから保険として「誰でも効果があるわけではありません」というメッセージも掲載しています。しかし、人々は「サブウェイを食べた肥満男性が大幅に痩せた」という部分に注目します。
インパクトのある広告を作りたければ、商品の機能ではなく商品を使って人生が変わった物語を見せればよいのです。