ヒエラルキーのメリット・デメリット

心理学者ジョン・メイナーによると、人間は序列(ヒエラルキー)が定められた集団の中で生きるように設計されているそうです。

実際に、初対面同士の5人を集めて何らかの課題に取り組ませる実験をすると、必ず5人の間にはヒエラルキーが生まれました。この実験では、5人が課題に取り組んでいる様子を別の被験者が別室で観察しています。観察者は5人の声が聞こえず、それぞれの表情やしぐさだけが見えているのですが、5人の間で誰がリーダーなのか当てることができました。

集団で何らかの仕事に取り組むとき、ヒエラルキーがあるとうまくいく可能性が高まります。リーダーは全体を俯瞰で見て、それぞれのメンバーがすべきことを指示します。メンバーは指示に基づいて動くことで、仕事は完成に近付いていきます。

もしヒエラルキーが存在しなければ、メンバーは自分がやりたいことをやり始めます。しかしそれぞれがやりたいことだけやっていると、全体の仕事はうまく回らないでしょう。ある程度の規模の仕事であれば、リーダーを立てて、リーダーが全体を見ながらメンバーに適切な作業を割り当てて進めないと途中で崩壊します。

ヒエラルキーの中で下位の者は上位の者に従うことで、集団はうまく回っていきます。しかし「下の者は上の者に服従する」という気持ちが強すぎると、弊害も起こります。上の者が間違っていたときに意見できなくなるという弊害です。

フライトシミュレーターを使って、飛行機の操縦をさせる実験が行われました。被験者は実際の機長と副操縦士たちです。実験の前に、機長は間違った判断をするよう指示されていました。そして副操縦士がいつ機長に進言するか観察していました。この実験を観察していたある心理学者は「副操縦士は機長に意見するよりも死ぬことを選んだ」と語りました。

この話を聞いて「そういう結果になったのはシミュレーターでの実験だったからだ」と考える人もいるかもしれません。多くの乗客・スタッフ、そして自分の命がかかっている実際のフライトでは、機長の判断がおかしいと思ったら進言するはずだと。

しかしアメリカ運輸安全委員会によると、30件以上の墜落事故の原因が「副操縦士らの乗組員が機長に進言できなかったこと」だとされています。

進言できなかった理由は様々でしょう。副操縦士が「今機長はAをしているけどここはBするべきではないか?」と思ったとします。ここで副操縦士は機長に進言する前に「でも機長が平然とAしているということは、自分が見落としている何かがあるのかもしれない。ここで『Bすべきではないですか?』と言ったら無能と思われてしまうかもしれない」と躊躇します。その結果、進言しても手遅れになる段階まで黙ってしまうのです。

「自分ならちゃんと進言する」と言うだけなら簡単です。しかし現実にそういう場面になって、すぐに進言できる人は少数でしょう。私も、少なくとも躊躇はすると思いますし、ためらいを振りほどいて進言できるか自信はありません。

300件を超えるビジネスプロジェクトを分析した結果、地位の高いスタッフがリーダーを務めるチームより、それほど地位が高くないスタッフがリーダーのチームの方が成功率が高かったそうです。地位が高くないリーダーは、知識や経験では地位が高いリーダーに劣るかもしれません。一方で、地位が高くないリーダーには、メンバーが遠慮せず意見をいいやすいというメリットがあります。

一方で、地位が高いリーダーには「自分が言わなくてもリーダーはわかっているだろう」「アイデアを思い付いたけどリーダーに無能と思われるかもしれない」という気持ちが働いてしまうのです。

こうしたヒエラルキーのデメリットを回避する方法として、上位者に対して意見をいいやすい環境を作るということがあります。「些細なことでも何か思いついたら言ってみよう」「リーダーの私が間違っていると思ったら遠慮なく言ってほしい」というメッセージを常に送り続けることです。

そしてメンバーがアイデアを披露したり、リーダーに進言するしたりしたときは大いに歓迎することです。リーダーは明らかに誤っている意見を言われたときも、発言者を馬鹿にしてはいけません。そんなことをしたら、そのメンバーも他のメンバーも二度と意見をいわなくなるでしょう。それはリーダーにとってもデメリットになります。

誤っている進言をされたとき、リーダーは進言に対して感謝の意を示し、賞賛しましょう。そのうえで「こういう理由でその進言は受け入れられない。しかし今後もこのような進言は歓迎だ」とメンバーに伝えましょう。

ヒエラルキーは元来人間に備わっているもので、メリットもあればデメリットもあります。そしてデメリットは工夫することで最小化することができるのです。

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