大丈夫の使い方、大丈夫?

現代口語において「大丈夫」ということばは非常に幅広い意味を持っています。元々「大丈夫」は「立派な男子。ますらお」という意味でした。そこから「心配のないさま。しっかりしているさま。たしかで、間違いのないさま。良い結果になることを請け合うさま」という意味も持つようになりました。しかし、現在ではこれらの定義では説明できない使い方されています。

①(転倒した人に駆け寄って)「大丈夫ですか」「大丈夫です」
②「明日までに資料を仕上げてもらえますか」「大丈夫です」
③(飲食店で)「こちらのお皿は下げてもよろしいでしょうか」「大丈夫です」
④(飲食店で)「お茶のお代わりはいかがでしょうか」「大丈夫です」
⑤(コンビニで)「レジ袋はお使いになりますか」「大丈夫です」

①は本来の「大丈夫」の使い方です。この場合の「大丈夫です」は「心配ありません。けがなどはしていません」という意味と解されます。

②も本来の使い方です。ここでの「大丈夫」には「ちゃんと明日までに資料を仕上げるのでご心配なく」という意味が込められています。

③では店員から「皿を下げてもいいか」と打診されて「大丈夫です」と答えています。この場合、ほとんどの人は「下げてもいいですよ」という意味であると捉えるでしょう。このように、「大丈夫」は「相手からの打診を許可する、受諾する」という意味でも使われています。

④はどうでしょうか。「お代わりはいらない」と解釈する人の方が多いのではないでしょうか。⑤も「レジ袋はいらない」と解釈する人が多いでしょう。実際、コンビニのレジで「大丈夫です」と言っている人に対してレジ袋を付ける店員は見たことがありません。

ここまで見てきたように「大丈夫」というフレーズは、文脈によって承諾の意味になったり、辞退の意味になったりするのです。よく考えれば非常に不思議な現象です。多義性のあることばというのは、日本語でも外国語でもたくさんあります。しかし文脈によってほぼ逆の意味になるようなことばは、滅多に存在しないのではないでしょうか。

「大丈夫」の解釈について私なりの仮説があります。それは「承認を求められて『大丈夫』と答えた場合、『承諾』の意味になる。なにかを勧められて『大丈夫』と答えた場合、『辞退』の意味になる」というものです。

⑥「今から遊びに行ってもいい?」「大丈夫だよ」
⑦「ここに車を停めてもいいですか」「大丈夫です」

⑥⑦は、承認を求められているので「大丈夫」は承諾の意味になります。

⑧「車で送っていきましょうか」「大丈夫です」
⑨「今から飲みに行くんだけど〇〇さんもどうですか」「大丈夫です」

⑧は車に乗ることを勧められているので、「大丈夫」は辞退の意味になります。⑨では飲みに行くことを勧められていますから、「大丈夫」と言っている人は辞退しているつもりである可能性が高いでしょう。ただ⑨に関しては「行きます」という意味に捉える人もある程度いると思います。実際の場面では、「大丈夫です」と言っている人の表情やニュアンスで解釈が変わってくることもあるでしょう。ニュアンスで意味が正反対になるフレーズって何だよ、という話ではありますが。

⑩(店で)「ポイントカードはお持ちですか」「大丈夫です」

⑩の「ポイントカードはお持ちですか」は、承諾を求めていませんし、勧誘もしていません。それに対して「大丈夫です」というのは本来会話として成立していないのですが、店員は「ポイントカードは持ってないんだな」と理解して会計を進めます。

こうした用法が広まった背景として「『大丈夫』が婉曲的な辞退として使いやすいと思われている」ということがあります。「ポイントカードはお持ちですか」と聞かれて「持ってません」というと、ちょっと素っ気ない感じがすると。そこで「大丈夫です」と答えると、やんわりと辞退しているニュアンスが出ていいんじゃないかと。そのように考える人が増えていると思われます。

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