内部通報に潜むリスク

政府広報オンラインによると、内部通報制度とは企業が企業内の不正を早期に発見して企業と従業員を守るため、組織内の不正行為に関する通報・相談を受け付け、調査・是正する制度です。公益通報者保護法により、従業員が300名を超える企業では内部通報制度の導入が義務付けられています。

公益通報者保護法によって、通報者は減給・降格・左遷・解雇といった不利益な扱いを受けないように保護されています。しかし実際には建前通りにいかないこともあります。

例えば「社員が会社の金を横領している」「社員が会社の製品を横流ししている」といった不正を内部通報した場合は、会社は通報を受けて適切に対処する可能性が高いでしょう。これらの不正は会社に損害を与える行為であり、不正行為をやめさせて関係者を処罰するのは会社の利益につながります。

一方で「上司がセクハラ・パワハラをしてくる」といった通報は、会社に握りつぶされるリスクがあります。特に加害者とされる人物が、会社とって利益をもたらす存在である場合はリスクが高まります。握りつぶされるどころか、報復を受ける可能性もあります。

通報先が法務部・総務部・内部監査室等、企業内の組織であれば通報が隠蔽されるリスクが高くなります。例えばパワハラの加害者と訴えられている人物が、その企業で重要な地位にあるとか、重要な顧客とつながっている場合、企業としてはその人物を失いたくないと考えます。そこで、通報先と会社上層部が「通報者を切り捨てよう」という決断をすることは珍しくありません。通報者は加害者とは別の部署に異動させられ、加害者はお咎めなしということになります。

通報先が外部の機関であってもリスクはあります。通報先として社外の弁護士等が指定されている場合があります。しかし、こうした社外弁護士への報酬がどこから出ているか、よく考えてみましょう。通報者の秘密を守りつつ、不正をただすような対応をすることが企業にとってマイナスになるのであれば、通報者を裏切って企業が守られるような選択をする動機になります。

ゴールドマン・サックスでMDという上位8%しか就けない役職に就いていたジェイミー・フィオーレ・ヒギンスは、著書『ゴールドマン・サックスに洗脳された私』で、内部通報をして裏切られた体験を語っています。

ジェイミーは顧客の接待で、最高級のビリヤード場で豪華な酒と食事を楽しんでいました。そこで泥酔したジャスティン(ジェイミーの同僚)は、店員の黒人男性に「少し休んだらどうです?」と声をかけられて逆上します。ここでは書けないような差別的な表現を含んだ罵詈雑言を店員に浴びせたのです。店員はジャスティンに殴りかかりそうな勢いでしたが、バーテンダーに引き離されました。

これを見たジェイミーは「今回は黙っていられない」と通報を決意します。実はこれまでもジェイミーは、ゴールドマン内でのひどい言動をずっと目にしてきました。そのたびに、見なかったことにしたり、人事部からのヒアリングに嘘をついて事を収めてきました。しかし今回は、ゴールドマンというファミリーの外で、公の場で起こったことです。

ジェイミーは、ゴールドマンに新設された「従業員と企業のコミュニケーションを活発にさせる部署」にいる弁護士に連絡を取って、今回の顛末をすべて話します。弁護士は「許されない行為ですね。よくぞ話してくれました。この件であなたの名前が出ることはありません」とジェイミーに告げました。

次の日、ジェイミーはマイク(ゴールドマンの役員クラスでジェイミーの上司)に呼ばれました。マイクは「ジャスティンの件を報告したそうだな」と言い放ちます。さらに「この部署は大きな家族みたいなものなんだ。今回の告発は家族に対する造反だ。これを不問にするわけにはいかない」と続けます。

その後、年に一度の人事考課でジェイミーのスコアは9点満点中6.5、下位50%という低い評価を食らいます。それまでジェイミーは15年以上ゴールドマンで働いてきて、8.75より低い数値を取ったことがありませんでした。内部告発の報復措置であることは明らかです。

このように、内部通報をおこなっても握りつぶされ、通報者が不利益を被ることがあり得ます。握りつぶされないためには、企業とまったく利害関係がない機関に通報する必要があります。例えば管轄する行政機関であったり、テレビ局・新聞社などのメディアです。ただしそれらの機関も、通報に対応するメリットがないと判断したら取り合ってくれないでしょう。

今はメディアを経由しなくても、個人がSNSで告発することが容易になりました。「どうしてもこの事実を世に告発したい。でも企業の息がかかった通報先は信用できないし、メディアも取り合ってくれない」という場合は、SNSで暴露するのも選択肢の一つです。

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