前回『気が気がつけば警備員になっていた。』について書きました。今回はその続きです。著者は横浜国立大学中退後、映画専門学校に通い、そこで出会った女性と結婚して女の子を授かります(作中、子どもの性別は書かれていませんでしたが子どもが「のんちゃん」と呼ばれていたので女の子という前提で話をします。違っていたらすみません)。アダルト誌やサブカル誌を作る編集プロダクションに入社しますが、深夜3時に「逃げよう」と思い立ち失踪。その後、警備会社に契約社員として再就職。港区にある高層複合ビル「グランドシティタワー」に施設警備員として配属されます。
「グランドシティタワー」というのは仮名です。作中のエピソードから、六本木にある東京ミッドタウンではないかと私は推測しています。
この作品で、著者である堀田氏はかなり正直に自分の心情や言動を記しています。いや、正直すぎるのかもしれません。多くの場合、こうした自伝的な作品において著者は自身を美化したり正当化したりするものです。また、自分にとって都合の悪いエピソードは書かなかったりします。
しかし堀田氏は、自分がやっていた警備員という仕事に対して偏見や劣等感をもっていることを随所で告白しています。また、後述するように多くの人から避難されるであろう行いも記しています。
作中著者は「やっぱり警備と設備は違う」と書いています。警備も設備も同じ防災センターに勤務していますが、設備は電気工事系の資格を有している職人的な存在です。雇い主である管理の人も、設備に技術的なことを尋ねることもあります。一方で警備の仕事は「誰にでもできることの代理である」と著者は語ります。「管理側でやろうと思えば簡単にできるが、こんなくだらない仕事は下請けに丸投げだ。実際、警備員がやっている仕事は今日から設備員だってできる」というわけです(私の考えではなく、本にそう書いてあるのです)。
また、警備員はたいてい何かに挫折して警備員の仕事に流れ着いていますが、設備員は高校・専門学校・大学で電気や機械系の勉強をして新卒の就職先として設備の仕事を選んでいるといいます。
そのような思いから、著者は警備員を「底辺の職業」と思っていました。そんな「底辺の職業」と自認している警備員が、自分たちより下だととらえている職業が清掃員だと著者は言います。警備員は「奴隷」だけれども、頭を使う仕事をしている。一方で、清掃員は脳味噌を1グラムを使わなくてもできる「動物の仕事」をしているというのです(繰り返しますが、本にそう書いてあるのであって私個人の考えではありません)。
こんなことは思っていても公に口にするべきではありません。ところが著者は、公言どころか本にして出版しているのです。著者はこのエピソードの最後に「私は、自分にはそんな欺瞞と差別心があることを今でも思い出して、自戒するようにしている」と記しています。
著者は24歳で結婚して1女をもうけますが、のちに離婚しています。東日本大震災が起きたとき、著者は勤務明けの休みで自宅で寝ているところでした。奥さんに電車が止まっているので、保育所にいる娘を迎えに行こうと言われますが「疲れてるんだよ」と言ってそのまま寝続けました。
夜になり、奥さんは3駅離れた保育所から娘を引き取って返ってきました。夜9時を過ぎていました。その日奥さんは一言も口を利いてくれなかったそうです。そりゃそうだ。
それから著者は「女性とホテルに行きたい」という願望に取り憑かれました。「なに言ってんだあんた」という感じですが、取り憑かれたそうです。連絡先に載っている女性にあの手この手で接触を試み、ホテルに行こうとして、その結果、1年足らずでこれまで築いてきた人間関係のほとんどを失いました。
さらに、あろうことか奥さんと友達の専門学校時代の同級生と食事をして、ホテルに行こうと画策します。この企みは未遂に終わりましたが、一連のメールを奥さんに見られて浮気未遂が発覚します。
ある日、警備の勤務から帰ってくると部屋の荷物が半分なくなっていました。奥さんの置手紙には『あなたが「家族のため」というたびに、すごく嫌な気持ちになっていました。自分の人生を歩んでください』と書いてありました。
こうしてバツイチになった著者ですが、小学校時代の同級生と再会、再婚します。その後娘をもうけます。ところがDVが原因で離婚してしまいます。2回目の離婚後、新しい婚約者ができますが浮気が発覚し、婚約は破談。200万円の慰謝料を請求されます。
著者は大学時代「友達が一人もできなくて恥ずかしい」という理由で大学を1年で中退してしまいます。そんなメンタリティの人間が、2回結婚して1回婚約者ができて、さらに結婚中や婚約中に浮気までしてしまうというのがすごいなと思いました。そっち方面はまた別なんでしょうか。
そんな人間が書いた『気が気がつけば警備員になっていた。』。興味を持った人は一読ください。