頻繁な切り替えの弊害

2つの作業を同時にこなすのが可能となるのは、一方あるいは両方の作業に必要な集中力がほぼゼロのときに限られます。例えば歩きスマホ。スマホの操作には一定の集中力が必要です。一方で、歩くことについては、ほぼ無意識状態でも実行可能です。テレビを見ながらおやつを食べるのも、おやつを食べるのはほぼ無意識で実行することができます。

一方で、電話をしながらメールを書くといったケースにおいては、2つを同時にこなすことは不可能です。電話での会話もメールでの会話も、一定の集中力が必要です。あなたが電話の相手の話を聞いたり、相手に話をしたりしているとき、メールの内容を考えることはできません。またメールの内容を考えているとき、相手の話は頭に入っていません。「電話をしながらメールを書く」といっても、その2つを同時に行っているわけではなく、集中力を向ける対象を素早く切り替えているだけなのです。

あなたが歩きスマホをしているとき、あなたの集中力はスマホに向けられています。人とぶつかりそうになったときや、大きなクラクションが鳴らされたとき、集中力がスマホから差し迫っている危機に向けられます。この切り替えが遅れると、歩きスマホが原因の事故が発生するのです。

現代人はどれくらいの頻度で集中力の対象を切り替えているのでしょうか。2000年代の中ごろ、心理学者のグロリア・マークは知識労働者がどれくらいのスパンでパソコンのひとつの画面に集中しているかを調べました。その結果、2分30秒ごとに集中の対象が切り替わっていることがわかりました。

2分30秒と書くと、かなり頻繁に作業を切り替えている印象ではないでしょうか。しかし2012年の調査では1分15秒になりました。さらに2016年から2021年の調査では45秒まで短くなったのです。

このように頻繁に集中の対象を切り替えることは、情報処理能力に関して悪影響を及ぼします。前段階で集中していた作業が、今集中している作業に干渉することがあるのです。目の前の作業に集中していれば、前の作業による干渉は薄まります。ひとつの作業に対する集中時間が短くなると、前の作業の影響が消えて今の作業だけに集中できるようになる前に、また次の作業に移ってしまいます。その結果、本当に集中して作業している時間は非常に少なくなります。

ビジネスチャットの普及は、作業の切り替えが頻繁になったことの原因のひとつでしょう。チャットはメールよりも気軽にメッセージを送ることができます。

■チャットメッセージのやり取り例
「●●の書類を添付します。ご確認お願いします」
「確認しました。2ページ目の○○とはどういう意味でしょうか」
「こういう意味です」
「了解です。後は大丈夫だと思いますがBさんはどうですかね」
「ちょっと今見る時間が取れないので午後確認して返答します」

自分にとってはあまり関係ないやり取りでも、上の例では設定によっては5件の通知が飛ぶことになります。通知を見てメッセージの中身を見れば、そのときやっている作業は中断されていまいます。メッセージを見なくても、通知を見るという行為のために多少なりとも集中力が削がれます。これを防ぐために通知をオフにするという対策が考えられます。実際、私もそうしています。

マルチタスクといえば聞こえはいいですが、実際には集中力のリソースを頻繁に切り替えているだけであり、効率が落ちる原因ともなることを認識しておくとよいのではないでしょうか。

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