個々は優秀なのになぜ間違えるのか

ビジネスでは様々な要素が絡まり合った複雑な問題が頻繁に発生します。こうした問題をうまく解決することは難しいものです。華麗な学歴と職歴をもつ秀才が集まるような企業でも、問題にたいしてしばしば誤った意思決定をします。

こうした現象について社会心理学者アービング・ジャニスは「集団思考」という用語を使って説明しています。ジャニスによると、意思決定を行う集団が孤立している、あるいは外部から強いストレスを受けているといった条件がそろうと、集団のメンバーは同調行動をとりやすくなります。そして、不十分な情報に基づいて不十分な選択肢の中から判断を下してしまう傾向があるということです。

集団思考に陥った集団は、現実を見ずに楽観主義に染まり、現実的な反対意見を排除しようとします。そして意思決定のために必要な情報を十分に検討しないまま、早い段階で意思決定の方向性が決められます。

例えば、本来はABCDEと5つくらいの現実的な選択肢があるにもかかわらず、議論の早い段階で「この状況を打開するにはAしかない」というムードが醸成されます。A以外の可能性など、とても口に出せるような雰囲気ではありません。最終的には満場一致でAに決まります。

2001年に破綻したアメリカの大手エネルギー商社エンロンの経営陣は、集団思考に陥っていたといえるでしょう。エンロンは1985年、2つの企業が合併して設立されました。エンロンはエネルギー市場の規制緩和の波に乗り、急成長をとげました。2000年には売上高が1000億円を突破し、全米7位の超巨大企業となったのです。

当時エンロンは利益の大部分をデリバティブ取引で得ていました。正確にいうと、デリバティブ取引で利益を上げていることになっていました。実際には取引の失敗で損失を抱えていましたが、連結対象外の子会社に損失を付け替えて、エンロン本体は儲かっていることにしていたのでした。

エンロンの経営陣は、このような会計方法のリスクは十分承知していました。しかしリスクを負ってでも見栄えのいい決算を出す必要がありました。エンロンのCEOの報酬額は2000年には1億4千万ドルに達しており、当時のアメリカ企業のCEOとしては最高額でした。CEO以外の経営陣の報酬も破格のものでした。

損失の付け替えを行わない、正直な決算を公開すれば市場はエンロンを見限ります。株価は急落し、経営陣の報酬もそれにともなって大幅に減らされるでしょう。減らされるどころか、解任ということも考えられます。「そうなるくらいなら、ちょっと決算をお化粧しよう」という誘惑に負けても不思議ではありません。集団思考に陥った経営陣は「この決算数値はおかしいでしょう」と異を唱えることはありませんでした。

このようにして見栄えがよくなった決算を見て、市場はよい反応を見せます。「さすがエンロンだ」「安定して成長を続けているね」と。市場が好反応を示すほど、その期待が裏切られたときに下される罰も膨れ上がっていきます。こうなると、破滅を迎えるそのときまで粉飾を留めることはできなくなります。

個々のメンバーは優秀なのに、集団思考に陥って最悪の結果を迎えた組織はいくらでもあります。そうした弊害を避けるためには、異質な経歴や思考法をもつメンバーを一定数受け入れることが必要となります。

畑違いの著名人が、公的な組織のメンバーとして迎え入れられることがあります。「話題作りだ」と批判されることもありますが、集団思考の弊害を防ぐという観点からはよい対策となり得るかもしれません。

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