フィルムで食ってきた会社の明と暗

資本主義社会において、企業は常に競争にさらされています。競争に敗れた企業は市場から退場することを余儀なくされます。「競争」というのは競合他社との競争もありますが、それ以外の相手との競争もあります。

かつて世界最大の写真用品メーカーだったコダックは2012年に倒産しました(倒産後、企業規模を大幅に縮小して再出発しています)。コダックは何に敗れて倒産したのでしょうか。コダックよりも安い、あるいは高性能の製品を販売するライバルが出現したわけではありません。

コダックの粗利益の約7割は、フィルム事業に依存していました。しかし2000年代以降、デジタルカメラの普及にともないフィルム市場は急激に衰退していきました。コダックはデジタル分野に弱かったわけではありません。デジカメが一般に普及するよりもかなり前、1975年にデジタルカメラを製作した実績もあります。コダックの経営陣は、これからはデジタルの時代だということを見抜いていたのです。

そこからの戦略が、今から見れば誤りでした。「フィルム写真がデジタルに移行しても、写真を印刷する文化は変わらない」と経営陣は考えていました。そこでコダックは、デジタル写真を保存する技術や、高画質で印刷する技術に多額の投資をおこないました。

ところが世間の人々は写真データを印刷するという習慣を捨て始めました。その代わりに、自分のスマホやクラウドサービスに写真データを保管したり、SNSにアップたりするようになります。

コダックは2004年に従業員5万人を擁していましたが、4年後の2008年には2万7千人まで激減しました。2012年1月3日、ニューヨーク証券取引所から上場基準について警告を受けたことを発表、同年1月19日に連邦倒産法第11条の適用を裁判所に申請しました。

コダックは同じフィルム事業者に負けたわけではありません。写真を印刷するのではなく、データで共有するという新しい文化に適応できなかったのです。自分たちが餌場としていたエリア内で、自分たちを脅かすライバルはいなかったものの、その餌場から餌が枯渇してしまったのです。コダックが生き残るとしたら、餌場を移るしかなかったでしょう。

餌場を移って生き残ったのが富士フイルムです。富士フイルムは日本の写真フイルムにおけるトップ企業です。しかしデジタル化が進むにつれてフィルムの需要は下がり続け、2009年時点でフィルム部門の売上は会社全体の5%未満でした。

2005年頃から、富士フイルムはフィルム事業を縮小し、その技術を生かして他分野への進出を本格化させます。現在では医薬品、医療機器、化粧品、健康食品など幅広い事業を手掛けています。もし富士フイルムがフィルム事業にこだわっていたら、生き残れていなかったでしょう。

市場自体が消えてしまえば、どんなに努力しても生き残ることはできません。そのような危険を察知したら「ずっとこれでやってきたんだから」といったこだわりは捨てて、新たな市場を開拓する必要があるのです。

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