社会学者のアーサー・ビーマンは、シアトルの住宅街でハロウィンに関連する実験に協力してくれる家を探しました。その結果、約30軒が実験のために家を貸してくれました。ビーマンらは各家庭を訪問する子どもたちを、のぞき穴から観察しました。
子どもたちは玄関に入ると「トリックオアトリート!」と言います。彼らを迎える女性は「キャンディをひとりひとつずつ持っていってね」と伝えます。その後、女性は玄関を立ち去ります。ここで子どもたちは、女性の言いつけを守ってキャンディを1つだけ取るのか?それとも2つ以上取ってしまうのか?それがビーマンらが確認したかったことなのです。
実験には複数の状況がありました。女性が立ち去る前に子どもたちに名前と住所を確認するかしないか。訪ねてきたのがひとりだったか集団だったか。2×2=4つの状況で、子どもたちの行動がどう変わったのでしょうか。結果は以下の通りです。数字はそれぞれのケースで2個以上キャンディを取った子どもの割合です。
(1) ひとりで訪問して名前を名乗った場合・・・10%未満
(2) 集団で訪問して名前を名乗った場合・・・・約20%
(3) ひとりで訪問して匿名だった場合・・・・・約20%
(4) 集団で訪問して匿名だった場合・・・・・・約60%
ひとりよりも集団の方が、そして匿名の方が、よりズルをする割合が増えるという結果になりました。そして集団で匿名という条件がそろうと、劇的に倫理や規範のタガが外れやすくなるということがわかります。
1960年代におこなわれた別の実験の話。電気ショックを与えられた被験者の変化を調べるという名目の実験ですが、本当の被験者は電気ショックを与える側の学生です。本当は電気ショックは存在しないのですが、学生がボタンを押すと被験者のふりをした俳優がショックで見悶える演技をします。学生には電気ショックを与える回数や時間は指示していません。
この実験では電気ショックを与える学生が2つのグループに分けられました。ひとつは実験中に大きなフードをかぶりゆったりとした白衣を着ます。もうひとつは普通に顔を出し、自分の氏名がが書かれた名札をつけます。匿名・没個性の状況かどうかで、行動に差が出るかを確認するのが目的です。また学生は電気ショックを与える前に、相手のインタビュー音声を聞かせます。音声は愛想がよい感じのものと、無礼で感じが悪いものの2パターンがあります。
顔出し、名札ありの学生は、無礼な感じの相手に対しては愛想がいい相手よりも多く電気ショックを与える傾向がありました。感じが悪い相手には気兼ねなく苦痛を与えられるようです。フードと白衣をつけた学生は、顔出しの学生と比べて電気ショックを与える割合が2倍になりました。これはインタビュー音声の感じがいいかどうかで差がありませんでした。
顔出しの状況では相手の印象によって攻撃性が変化するが、匿名性が高い状況では相手が誰であろうと攻撃性が高くなるということがわかります。
SNSでは攻撃的なコメントが問題になることがあります。匿名性が高い状況で、その他いろいろな条件がそろえば、誰でもそのような行動に走ってしまう危険性があるのです。