自分にとって都合の悪い情報や、自分の信念に反する情報に触れたとき、人はどのように反応するのでしょうか。多くの人はそれをすぐに受け入れようとはしません。「何かの間違いではないか」と疑ってかかるものです。
都合の悪い情報に対して人がどのように反応するか、1992年に行われた実験で知ることができます。被験者は自分の唾液を容器に入れて、小さな紙片を浸します。半分の被験者は「膵臓に異常があると紙が緑色に変わる」と伝えられます。残りの半分は「膵臓に異常がなければ紙が緑色に変わる」と伝えられます。どちらのグループにも「反応には20秒かかる」と言っています。実は紙片は何の変哲もない紙です。何時間唾液に浸しても色が変わることはありません。
「緑色に変われば異常なし」と言われたグループは、反応にかかると言われた20秒よりもずっと長く待つ傾向がありました。また、再検査をした被験者はグループ全体の半数以上いました。被験者たちはこのように考えたのでしょう。「緑色に変わらない・・・異常があるということか・・・いやもう少し待ってみよう」「数分待っても色は変わらない・・・念のため再試験してみよう」
一方で「異常がある場合は緑色に変わる」と言われたグループは、20秒待って反応がないことを確認したらすぐに検査をやめる傾向が強かったのです。また再検査したのは18%だけでした。「20秒!よし異常なし!」というわけです。
「異常なし」という自分にとって喜ばしいことについては、それが確認できたら疑うことなく受け入れます。ところが「異常あり」という結果が出た場合、すぐには受け入れずに「もう少し待つと結果が変わるかも」「今回は何かの間違いかも」と考えるのです。
神経学者のケビン・ダンバーの実験によると、人は自分が信じたくない情報に触れると脳のスイッチをオフにしてしまうようです。実験ではあらかじめ、被験者が抗鬱剤の効果についてどう考えているか調査します。その後、被験者の見解に合致するデータと反するデータを見たときの脳の反応をMRIを使って分析しました。
被験者の意見に合致するデータを見たとき、学習に関連する脳の領域が活発に活動することが認められました。意見に反するデータのときは、学習関連の領域は反応しませんでした。逆に思考を抑制する領域が活発化したのです。
この実験結果を見る限り、相手が間違っていることを納得させるには、客観的な反証を示すだけではうまくいかないかもしれません。そもそもそんなデータは相手の頭に入っていかないからです。
2006年、架空の新聞記事を読ませて、その内容にどのように反応するか調べる実験が行われました。記事は政治・社会・科学等における意見が分かれる話題を扱っています。
実験の結果、特定の話題に強い信念を持っている人は、信念に反する記事を読んでも考えを改めることはありませんでした。むしろ、記事を読んだ後はその信念がより強くなる傾向がありました。
「必死になってこのような反論を出すということは、やはり私の信念は正しかったようだ」と考えるというわけです。この論法を使ってきたら、この人を説得したい相手もお手上げでしょう。すべての攻撃が無効になるどころか、攻撃を吸収してパワーアップしてしまうのですから。
人を説得しようとするときには、これらの実験結果のことをよく踏まえておく必要があります。気を付けないとまったく効果がない武器で論戦に臨むことになってしまいます。