虚構の多数派

1975年、社会学者オゴーマンはアメリカの人種隔離政策末期に実施されたアメリカの黒人差別に対する意識調査を分析しました。20世紀前半、アメリカでは公共交通機関・学校・トイレ・その他公共施設の理容に関して、白人と黒人などの有色人種を分けることが認められていました。

1955年、アラバマ州の百貨店に勤めていたローザ・パークスがバスに乗車中、運転手から白人に席に譲ることを拒否し、逮捕されたことをきっかけに公民権運動が起こりました。翌1956年、連邦最高裁判所はバス内の人種分離条例は違憲であるとの判決を下しました。この話は非常に有名で、日本では多くの英語の教科書にも掲載されました。

こういった経緯があったものの、1960年代初め頃、黒人に対する差別意識は払しょくされていませんでした。当時の白人の意識についてオゴーマンが分析した結果、以下のことがわかりました。アメリカ国民のうち、人種隔離政策の継続に賛成しているのは約20%でした。そして、次の結果が重要なのですがアメリカ国民の約半数が「国民の大多数が人種隔離継続に賛成している」と思っていました。

つまり「私は人種隔離政策を廃止してもいいと思っているが、他のアメリカ国民は人種隔離政策に賛成しているだろう」と予想していたのです。実際には約8割が「人種隔離政策を廃止してもいい」または「廃止すべきだ」と考えているのに、大多数が賛成しているという思い込みのために、人種隔離政策の廃止には多くの年月を要しました。

心理学者のボーヴェンは、コーネル大学の学生にアファーマティブアクション(マイノリティに対する優遇制度)についてどう思うか調査しました。その結果、4人に1人の学生は賛成、約半数の学生は反対という意見でした。

次にこの調査における全体の結果を予想してもらったところ「約40%が賛成で40%くらいが反対だろう」と学生たちは答えました。つまりアファーマティブアクションの支持率を実際よりも高く見積もっていたということです。

コーネル大学の学生に限らず、多くの人は「差別意識をもっている」とか「前時代的だ」と評価されることを恐れています。そのため「アファーマティブアクションなんておかしいよ」と思っても、公の場では口にすることをためらいます。アファーマティブアクションに賛成の人は、それを主張します。かくして小数の声を上げる賛成派と、多数の沈黙する反対派という構造ができあがります。「反対の人はいないようですね?」ということで、その方針が継続されます。

「私は別にいいんだけど他のみんながどう思うか・・・」そのような考えが頭をよぎったとき「果たして他の人はそう考えているんだろうか」と再考してみてはいかがでしょうか。

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