1971年、心理学者ジョン・ショプラーらはある実験を行いました。被験者の学生は、教師役となってとある学習テストを実施します。教師役は生徒役の学生に、木製のキューブをスティックで叩く一連の動作をやってみせます。生徒役はそれを見て、教師役がやった通りに動作を行うのが目標です。ちなみに生徒役は学生を装った実験協力者です。
教師役はふたりの生徒役にそれぞれ異なる方針で指導します。ひとりに対してはうまくできたら誉めて指導します。もうひとりに対しては、間違ったときに叱ったりけなしたりします。指導後、教師役の学生は「生徒役がどれくらい魅力的で好感をもてたか」というアンケートに答えます。全体として、叱ったりけなしたりした生徒は、誉めた生徒よりも人間的魅力が劣ると答えました。
これは行動が感情を動かした例です。教師役の学生は生徒役が嫌いだから、あるいは魅力に乏しいから叱ったわけではありません。実験上のルールとしてそうすることになっていたから叱っただけです。そして、叱ったことによって相手の人間的魅力を低く評価することになりました。
我々は「人の行動には必ず理由がある」と考えがちです。しかし実際には、やった本人ですら理由を説明できないような行動をとることが多々あります。なぜ自分がそのような行動をとったかはっきりしないとき、人は後付けでもっともらしい理由をでっちあげます。
教師役の学生は、与えられたルールに基づいて特定の相手を叱りました。ここで自己認識と自分の行動の不一致が起こります。「今日初めて会った相手を叱っている。普段ならこんなことしないのに!」というように。そこで自分の行動に対して説明がつくように、相手への認識を修正します。「相手は人間的魅力に乏しい人間なんだ。だから叱られてもしょうがないんだ」というように。
社会心理学者のレオン・フェスティンガーは「人は自分の感じること、やったことと適合するように世界観を調整する」と語りました。まさにその現象が、教師役の学生に起こったのです。
昔ならそこまで問題にならなかったようなことが、SNSで大きな話題になることがよくあります。SNSで「Aさんがこんな悪いことをしていました!」という投稿があって、それが軽くバスったとしましょう。話題を聞きつけて寄ってきた人は、たくさんのAさんを非難する書き込みを見て「こんなに非難されるということはやはりAさんが悪いんだろう」と考えます。一部の人は、「自分もなんか書いとこう」と思ってAさんを非難するような書き込みをします。Aさんを非難する書き込みをした人は「私が避難する書き込みをしたということは、やっぱりAさんは悪い人なんだ」とAさんへの嫌悪感を強めます。そしてさらに過激な書き込みをするようになります。
SNSが炎上する背景として、「非難する」→「嫌悪感が強まる」→「さらに非難する」という負の感情増幅システムが働いていることが挙げられます。そうやって炎上しているのを聞きつけて、さらに人が寄ってくるのです。
人のこうした感情のメカニズムをうまく利用すると、自分の味方をたくさん作ることができます。つらくあたった相手を嫌いになるということは、逆に親切にした相手のことを好きになるということです。
仕事やプライベートにおいてちょっと苦手だなと思っている相手を思い浮かべてください。その人がスマホの充電が切れそうになっているのですが、充電器を持ち合わせておらず困っています。あなたは充電器を持っていて、今は使っていないしバッテリーの残量も十分あるので相手に貸してあげました。相手はあなたにお礼を言って充電をおこない、ある程度充電した後でまたお礼を言って充電器を返してくれました。
充電器を返してもらった後、あなたは相手への苦手意識がある程度解消されるはずです。「嫌な相手に充電器を貸すわけがない。あの人はいい人なんだ」というように、自分の行動に合わせて相手への認識が修正されるのです。
距離を縮めたいと思っている相手がいるのであれば、相手から自分にちょっとした親切をしてもらうように仕向けましょう。例えば「傘を貸してもらう」とか「自分が知らなくて相手が知ってそうな知識を教えてもらう」といった、容易にできる内容でいいのです。親切をした後、相手はあなたに対して前よりも親近感を抱くようになるはずです。