スポーツ界では「筋トレでつけた筋肉は競技で使えない」という考えがありました。しかしそれは根拠のない偏見です。筋肉をつけることは体の厚みや出力を増やすことにつながります。どういう方法で増やしたかにかかわらず、筋肉は筋肉です。筋トレでつけた筋肉だと競技の役に立たなくて、競技の練習でつけた筋肉は役に立つということはありません。
雑誌『IRON MAN』で、サンディエゴ・パドレス所属投手、ダルビッシュ有とボディビルダーの鈴木雅の対談記事がありました。そこでダルビッシュは「筋トレを始めてから球速が増えた。筋トレをして選手として成長できた。逆に筋トレをして競技上悪くなったことはない」と語っています。
ダルビッシュが主に取り組んでいたのは、体の敏捷性・安定性を向上させる目的のファンクショナルトレーニングではなく、ボディビルダーがおこなうようなオーソドックスな筋トレです。ダルビッシュは一般的な筋トレによって、18歳のときから最大30kgほど体重を増やしました。それでパフォーマンスが落ちたなどということはなく、むしろ投手としての才能を開花させました。ひとりの事例ではありますが「筋トレでつけた筋肉は競技では役に立たない」という説の反証となります。
ダルビッシュは「野球界ではいまだに筋トレにいいイメージを持っていない層が一定数いる」と言っています。また、その原因として指導者の問題を挙げています。指導者は筋トレの効果を知らずに育ってきた世代が多い。したがって、筋トレを本格的に導入することに抵抗がある。また、筋トレの専門家をチームに招へいしたら筋トレに関しては指導者の支配力が及ばなくなってしまう。チーム内で絶対的な影響力を保ちたい指導者にとっては都合が悪いということになります。
私が中高生の頃は、今以上に筋トレに対する偏見がありました。所属していたバスケ部の顧問は「動きが鈍くなるからあまり筋トレはするなよ」と言っていました。もちろんこれは科学的に誤りです。
そもそもほとんどの中高生は、アスリートとしては筋肉量も体重も足りていません。プロスポーツ選手の高校時代の写真を見たら、ほとんどの場合「ガリガリだな!」という感想をもつことでしょう。したがって、筋トレをして筋量や体重を増やすことはおおいに推奨すべきです。
100mなど短距離走の一流選手は皆筋骨隆々の体型をしています。モデルのようなスラっとした体形の選手などいません。このことからも「筋肉をつけると動きが鈍くなる」というのは間違いであることがわかります。
筋肉をつけるということは、車でいえばより強力なエンジンを搭載することにつながります。筋トレで筋量・体重を増やすと、出力が大きくなって競技能力が上がるといえます。もちろん何事にも限度があって、必要以上に筋肉をつけると出力が増えるメリットよりも筋肉がおもりになるデメリットの方が上回ってしまいます。そうなるとまさに「筋肉をつけると動きが鈍くなる」という話が現実のものになってきます。
ただし競技能力に悪い影響が出るほど筋量を増やすのは簡単ではありません。仮にプロのボディビルダーレベルまで筋肉をつけたら、競技に悪い影響があるかもしれません。しかしほとんどの選手は、ハードに筋トレに取り組んでもそのレベルまで筋肉がつくことはないでしょう。未来ある中高生は、安心して筋トレに取り組んでほしいと思います。