人は1万円を手に入れたときよりも、1万円を失ったときの方が精神的な作用が大きくなります。1万円を得たときの喜び度合いを10とすると、1万円を失ったときの悲しみ度合いは10よりも大きくなるということです。
「50%の確率で1万円を失うが、50%の確率で2万円もらえる」というゲームがあります。あなたは参加するでしょうか。確率論からいえば、このゲームの期待値はプラス5千円ですから参加しない理由はありません。しかし実際にはこのゲームを断る人も多いでしょう。期待値がプラス5千円といっても、ゲームが終わったときは1万円を失っているか2万円を得ているか、どちらかの状態しかないのです。
このゲームを断る人は「2万円を得るチャンスを逃してでも、1万円を失うリスクを回避したい」と判断したと考えられます。数学的にいうとリスクには一定のリスク回避係数がかけられていて、意思決定の際には(リスク×リスク回避係数)と(リターン)を比較しているといえます。
多くの人にとってリスク回避係数は1より大きい数字になっています。リスク回避傾向の強い人ほど、リスク回避係数も大きくなります。リスク回避係数が10の人は、リスクが1万円、リターンが9万9千円のゲームがあっても見送るでしょう。
仕事やスポーツにおいて、多くの人は「成功したい」という願望よりも「失敗したくない」という気持ちの方が強く働きます。そういった気持ちをうまく利用すると、結果的にパフォーマンスの向上につながる場合もあります。
ゴルフではホールごとに基準打数が決められていて、基準と同じ打数でボールをカップに沈めればパー、基準よりも1打少なければバーディ、基準よりも1打多ければボギーとなります。パーは現状維持、バーディは成功、ボギーは失敗と考えることができます。
経済学者のデビン・ポ-プらはゴルフに関連するある調査をおこないました。ゴルフのグリーン上では以下の2つのパットが起こり得ます。
1.バーディパット(沈めればバーディ、外したら次はパーパットになる)
2.パーパット(沈めればパー、外したらボギーあるいはそれ以下の結果になる)
調査では250万回以上のパッティングデータが集められました。データ分析の結果、パットの難易度やカップからの距離とは無関係に、パーパットはバーディパットよりも成功率が高いことがわかりました。成功率の差は約3.6パーセントでした。
もちろん選手はバーディパットにおいても集中して取り組んでいたでしょう。しかしパーパットにおいては「外してボギーになることは絶対に避けたい」という気持ちから、より集中して打っていたことが推測されます。
ゴルフというのは18ホール回ってトータルでの打数が少ない選手が勝ちという競技です。したがって、バーディパットもパーパットも実は本質的な価値は変わらないといえます。どちらのパットも、決めればそのホールはそのときの打数で確定し、外したらさらに1打、あるいはそれ以上の打数が加わるというだけです。
ところが人間はそのように割り切って考えることが難しい。やはりバーディパットを外すよりもパーパットを外したときの方がショックは大きいし、それを避けるためにパーパットの際は集中力が高まるのです。