振り込め詐欺の研修システム

警察庁の発表によると、2022年の特殊詐欺関連の被害額は前年比88億8000万円(31.5%)増の370億8000円と、8年ぶりに増加しました。認知件数は同3072件(21.2%)増の1万7570件でした。

こういった特殊詐欺に関わっていた人々を取材して、その実態を明らかにしたのが鈴木大介が著した『奪取 「振り込め詐欺」10年史』です。2013年に発刊された本です。この本ではタイトルの通り、特殊詐欺の中でも振り込め詐欺に焦点が絞られています。

2004年4月某日、著者は初めて「振り込め詐欺の実行犯」に接触しました。その名は「藤堂君」当時25歳。大学在学中からギャンブルにはまって、闇金から50万円を借りたのが転落の始まりでした。その後借金は380万円にまで膨らみ、実質返済不能状態に。そんな藤堂君に取り立て屋の「三浦」と名乗る男が連絡をしてきて、環七沿いのデニーズに来いと指示してきました。

逃げても無駄だと思った藤堂君は覚悟を決めて指定された場所に行きました。そこで三浦から「返せないというのであれば電話営業の仕事を紹介します。研修があるので今から行きましょう」と言われます。事実上交渉の余地はなく、藤堂君は三浦の車に乗って研修に連れていかれます。

研修場所となったのはボロボロのビルの一室。藤堂君含めて10名が参加していました。最初の研修は普通のテレアポ営業です。墓地・リフォーム・財テクなどの営業電話をかけて、相手が興味を持ったら「上の者から後程詳しい説明の電話を入れます」と言って電話終了です。実際に売る商品があるわけではなく、あくまで電話のスキルを磨くための練習です。当然、ほとんどは取り付く島もなく断られます。断られたらすぐ次の電話を掛けないとコーチから殴られます。初日は6時間ひたすら電話をかけまくりましたが、折り返し電話までたどり着いたのは10名中3名でした。

このようにして基本的な電話スキルを鍛えた後は、いよいよ詐欺電話のロールプレイングです。電源の入っていない携帯に向かってひたすら金を振り込んでもらうお願いをします。コーチが電話の相手役でいろいろ話をするのですが、それを聞いていたら「相手の話を聞くな!割り込め!」とどやされます。「お願い婆ちゃん!」と座って言ったら「座ってお願いするな!本気で頭下げて困れ!泣け!」と張り倒されます。こうして練習を重ねるうちに、藤堂君は「いつでも泣きながら電話のできる男」になっていたそうです。

研修最終日、10名いた研修生は藤堂君含めて4名になっていました。その後、藤堂君は振り込め詐欺の実行犯として働きました。

まず藤堂君が電話をかけて、相手の孫か子どもという想定で「事故を起こした。助けてほしい」と伝えます。このとき藤堂君は「実際に自分は事故を起こしてしまい、本当に困っている。そこで自分の本当のお婆ちゃんに電話をかけている」と思っていたそうです。

相手がもし疑ったり、断ったり、ガチャ切りしたりしたときは「間違って別の家に電話をかけてしまった」と考えます。だから「早く本当のお婆ちゃんに連絡しないとやばい!」と思って、次の電話をかけます。相手が藤堂君を本当の孫と信じてしまったときは「やっと本当のお婆ちゃんにつながった!」と思うそうです。

詐欺が成功した場合、歩合でギャラをもらえます。一人も騙せなくても1万円の日当はもらえるそうです。藤堂君は二か月ほどで借金を完済できたとのことです。

ここまで読んでみて、詐欺部隊の研修システムはすごいなと思ってしまいました。何のスキルもない人たちを連れてきて「事故を起こして本当に困っている人」を演じられるまでに育ててしまうのですから。そのノウハウでまともな事業に取り組んでほしかったと思います。

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