冷静に価値を見極める

何か大きな目標に向かって進むときは、やるべきことをやるというのが重要です。それと同じくらい重要なのが「やらなくてもいいことをやらない」ということです。

企業などの組織がもっているリソースは有限ですから、消費したリソース以上のリターンがない活動は不要です。消費するリソースや、そのリターンについて、金やモノなど具体的に数値化できるものであれば要不要の判断はつきやすいでしょう。

販売促進のために、商品の割引セールを行ったとすると、割引分の金額・PRのための広告費用・セールに投入された人材×時間×時給などが、消費したリソースとして計上されます。そのリターンとしては、セール期間の売上アップ額・セール後の売上アップ額・セールによる認知度アップ度合いなどが計上されるでしょう。

具体化、数値化しづらいリソースもあります。社内の慰労会を開催すると、会場費用や参加者数×時間×時給といったリソースが消費されます。一方で、慰労会が直接売上や利益を向上させることはありません。だからといって直ちに「慰労会は不要だ」と結論付けることはできないでしょう。参加者の帰属意識や士気の向上といった、数値化が難しい部分のリターンを評価する必要があります。

いずれにせよ、総合的に考えて消費したリソース以上のリターンを生まない活動は中止して、費用対効果が高い活動にリソースを集中すべきです。

ところが実際の組織においては、そういった効率の悪い活動がだらだらと続けられていることが散見されます。事情は様々です。影響力が大きい幹部の肝煎り事業だからという理由で、ずっと赤字で改善の見込みのない事業が、存続について検討されることすらなく継続されていることがあります。また、長年継続して行われた活動で、今はもうその役割を終えていることが明らかなのに、誰も「もうやめましょう」と言い出せずに続けられているといったこともあるかもしれません。

マグロウヒルは、1888年にアメリカで創立された老舗出版社です。教育関連の書籍や、ビジネス誌等で成功を収め、1986年には競合大手を買収して教育出版社で全米最大手の地位を手に入れました。

2008年から2009年の金融危機を契機に、マグロウヒルは広がり過ぎた事業の整理を始めます。まず2009年にビジネスウィーク誌をブルームバームに売却します。さらに放送事業も2011年に売却しました。

マグロウヒルはさらに不要な部門の整理を進めます。規模の大きい財部・IT・人事部門を解体して、外部に委託しました。さらに管理職のリストラを断行したうえで、2012年に教育出版事業部門を売却しました。

マグロウヒルは2013年と2016年に社名を改称し、現在ではS&Pグローバルという名前になり、金融情報サービスに特化した会社になりました。元々は教育出版事業で成長してきた会社だったのですが、社内のリストラや社名改称を経て金融情報サービスを事業の主力に据えたのです。

大規模な事業整理直後は、62億ドルあった売上が42億ドルまで下がりました。しかしその後は年7%ペースで売上を伸ばし続けています。また、株価は年24%の上昇を記録しています。

S&Pグローバルの成功の要因は、リターン率が低い事業を整理したことでしょう。それまで主力でやっていた事業が今後先細りになりそうと思っても、「この事業は我々のアイデンティティだから」と思って切り離す決断を下しにくいものです。そこで躊躇せずに事業を整理できたから、現在の成功があるのです。

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