アップルが2007年にiPhoneを発表したとき、評論家の多くは失敗に終わると予想しました。アップルが販売していたパソコン、マッキントッシュと同じで、一部マニア向けの製品に過ぎないという見方が強かったのです。
当時マイクロソフトのCEOだったスティーブ・バルマーは「iPhoneがある程度以上の市場シェアを獲得することはない。値引きがあっても500ドルもする。アップルが獲得できるシェアは2%か3%くらいのものだろう」と語りました。
IT評論家、ジョン・ドヴォラックは「携帯電話市場は、卓越した2社、ノキアとモトローラがすべてを支配するプロセスが進行している。利益率は極めて小さいため、雑魚では太刀打ちできない。アップルがこの競争の激しい市場で成功する可能性はない。アップルが先駆者であったパソコン事業でさえ、マイクロソフトとの競争にさらされて、現在では5%のシェアしかない。同社がパソコン事業で生き残っているのは、利益率が高いからだ。利益率が低い携帯電話市場では、とてももたないだろう」と、厳しい評価を下しています。
上記2人や、その他多くの業界関係者の予想が間違っていたことは、現状のiPhoneの隆盛をみれば明らかです。
1957年、プレンティすホール出版のビジネス書担当編集者は「私は最も優秀な人たちと語り合った。その結果、データ処理は1年ともたない一時的な流行だと断言する」と語りました。また、1977年にデジタル・イクイップメント・コーポレーションの創業者、ケン・オルセンは「個人が自宅にコンピューターを持つ理由はない」と語りました。
1981年、ビル・ゲイツは「640KBはすべての人にとって未来永劫充分なメモリだ」と語りました。640MBですらない、640KBです!今、メモリ640KBのパソコンなんてあっても起動すらしないでしょう。
これら一連の発言は、その辺の一般人が適当な知識に基づいて語られたものではありません。みな、その道の専門家です。しかし、そういったエキスパートでも、後になってみれば見当はずれの発言をしているんですね。むしろ、エキスパートほどこういった誤りを犯しやすいのかもしれません。
あなたが専門としている領域で、画期的なアイデアや商品が発表されたとします。あなたは様々な思いを抱くでしょう。「なぜ自分がこれを思いつけなかったのか」「自分の取り組みが否定されてしまった」などなど。そして、自分が真剣に取り組んでいればいるほど、その新商品を認めたくないという気持ちが強く働くのではないでしょうか。
こういった心理は「自前主義」と呼ばれることもあります。「自前主義」というのは、自分で思いついたアイデアは実態以上に価値があるものと思う一方で、他人のアイデアはその価値を軽視してしまうという傾向のことです。
イギリスの心理学者、グレッグらは自前主義に関連する興味深い実験を行いました。参加者は、「研究者が、はるか遠くにあるワグウッドという惑星に棲む生物、ニフティスとルーピテスに関して研究している」という文章を読みます。さらに参加者には「ニフティスはルーピテスを捕食する」「ニフティスは強い歯を持っている」「ある地域ではニフティスの数は増加し、ルーピテスの数は減少している」といった7つの主張を読ませて、その信憑性が何%あるか判断してもらいました。
実験では、参加者を2つのグループに分けました。1つのグループは最初の「研究者」の部分が「あなた自身」と書かれています。もう1つのグループは「アレックス」という名前になっていました。
「あなた自身」と書かれたグループは、「アレックス」と書かれたグループと比べて、7つの主張すべてにおいて「信憑性が高い」と考えた程度が大きいという結果が出ました。架空の設定、架空の理論であっても、「それは自分で考えたものだ」とされただけで、信憑性が高いと判断してしまううんですね。
人間の性質上、自前主義を完全に排除することはできないでしょう。自前主義の存在を認めつつ、なるべく柔軟に外部の意見を取り入れるように意識的に取り組めば、みすみすチャンスを逃すリスクを減らすことができるかもしれません。