今回は『THINK BIGGER』という本を紹介します。著者のシーナ・アイエンガーは、コロンビア大学ビジネススクール教授です。アイエンガーは1969年、インド移民の両親のもとカナダで生まれました。3歳のときに眼の病気を患い、10代後半で全盲となってしまいます。その後大学に進学し「選択」を研究テーマとしました。スタンフォード大学で社会心理学の博士号を取得し、経営思想界のノーベル賞といわれるランキング「Thinkers50」に3度にわたり選出された人物です。
アイエンガーは、コロンビアビジネススクールで「イノベーション商談会」というイベントを開催しています。イベントでは、約100人の学生が解決したい課題をもって教室に集まります。学生たちは3人1組のチームにわかれて、ひとりずつ、チームの残りの2人に対して自分のアイデアを1分以内に売り込みます。これをチーム替えをしながら繰り返します。
イベントが開催される2時間の間に、参加者は数十回も自分の課題を他人に説明することになります。イベント終了後、参加者はどんな気持ちになるでしょうか。それを調べるために、アイエンガーは参加者全員に以下のアンケートに答えてもらいました。
【イベント前のアンケート】
・あなたが解決したい課題と売り込み文句を書いてください。
・7段階評価で1が最低、7が最高とすると、課題に対して感じる情熱はどれくらいですか。
【イベント前のアンケート】
・7段階評価で1が最低、7が最高とすると、課題に対して感じる情熱はどれくらいですか。
・イベントの間に、売り込み文句を何回修正しましたか。
・あなたが解決したい課題と売り込み文句を改めて書いてください。
イノベーション商談会で、参加者はそれぞれ3枚の色紙を渡されます。ピンクの紙は300ドル、オレンジの紙は500ドル、緑の紙は1000ドルということにします。参加者は最後に、投資したいと思った相手を3人選び、評価に応じて3枚の色紙のうちいずれか1枚ずつを渡します。自分自身に渡すことはできません。投資額が最も多かった参加者が優勝となります。
何年かこのイベントを実施した結果、以下のようなことがわかりました。
・学生の約20%が、終了後に課題への情熱が薄れたと回答した。
・学生の35%が、商談会の間に売り込み文句を修正する。
・商談会終了後に情熱が高まったと回答した学生は、平均的な学生の約4倍の投資を集める。
・平均的な学生は1150ドルの投資を集める。一方で、情熱が高まった、かつ売り込み文句を修正した学生は4882ドルの投資を集める。
ある課題に対して強い情熱を持っているのであれば、簡単に方針を変えるはずがない、と思う人もいるかもしれません。しかし、アイエンガーはそうは考えません。「何かを本気で考えるためには、柔軟性を持って、それをいろいろな方法でとらえ、とらえ直すことが欠かせない。課題を何度も定義し直すことでこそ、それを本当の意味で理解し、価値あるものを生み出すのに必要な知的、精神的エネルギーを費やす意欲が自分にあるかどうか判断できるのだ」と著書で述べています。
この考えは、私にとって再発見でした。自分のアイデアで「セールスポイントはAだ」と思っていたものが、他の人に話を聞いたら「Aを欲している人は実は少ない。むしろBを求めている」ということがわかったーこれはよくある話です。また、世の中の状況が変わって、売り文句が魅力のないものになってしまうこともあるでしょう。
そんなときに最初のアイデアに固執し続けるのは、成功確率を下げてしまうでしょう。アイエンガーのいうように、何度も課題を定義し直して、新たな売り文句を考える方が、うまくいく可能性が高まるはずです。
アイエンガーのイノベーション商談会は、幅広く応用できそうです。企業で新企画のプレゼンをおこなう場合、ひとりまたはせいぜい数人が、自分のアイデアを売り込んで、採否が決められます。そこでは起案者が自分のアイデアを見つめ直し、再定義する余地は少ないでしょう。
イノベーション商談会のように、自分のアイデアを多くの人に説明するような場を設けてみてはどうでしょうか。説明を繰り返す間に、アイデアがブラッシュアップされて、組織により利益をもたらすことが期待できます。
ポイントは「他人に話す」ということです。ある段階までは、ひとりで考え抜くことも大事です。しかし、アイデアがある程度固まったら、そこから先は自分だけで考えても、自分の枠組みや先入観から抜け出せないでしょう。他人に話して、その反応や感想を見ることによって、アイデアが磨かれるのです。