私は普段髪を切るとき、QBハウスを利用しています。かつては1,000円を払えば10分で髪を切ってもらえました。現在は1,350円になっていますが、それでも一般的な散髪屋や美容院よりは安いです。
QBハウスは従来の散髪屋・美容室から、洗髪・パーマ・カラーリング・スタイリング・顔剃り・店員のトークといった要素を排除して「髪を切る」というサービスだけに特化することで、格安の料金を実現しました。私のように「髪を切る」以外のサービスを求めていない客は、安くてすぐに終わるQBハウスを利用します。
今から10年以上前の話になります。QBハウスの隆盛に脅威を感じた従来の理容所・美容所業界は、対抗策を考えます。地元の議員に陳情して、理容所等に洗髪設備の設置を義務付ける条例を作ってもらったのです。
例えば、平成20年4月1日に施行された長野県の条例では「作業場内に、温水を供給することができる洗髪設備を設けること」という条項があります。条例施行日までに検査を受けた理容所等は、適用から除外されますが、施行日以降に新設、あるいは増築・改築した既存店は適用の対象となります。
通常、QBハウスには洗髪設備がありません。この条例によって、施行日以降に新設するQBハウスは、既存店よりも開店コストが余計にかかることになります。しかもそれはリターンのないコストです。QBハウスに来るような客は、洗髪サービスを必要としていません。したがって、QBハウスに洗髪設備を設置しても、設置費が無駄になるだけです。
要するに、既存業界団体は、QBハウスに客を取られないような戦略を練るのではなく、QBハウスの足を引っ張ることで対抗しようとしたわけです。
もちろん「QBハウスが目障りだから」という理由で条例を制定することはできません。「公衆衛生維持のため」というのが条例の大義名分でした。「QBハウスで髪を切った人が、近隣の飲食店で食事をしたときに、髪の毛が落ちて不衛生であるという意見が上がっている」という理屈が用いられたようです。
いいがかりにもほどがありますね。まず、実際にそんな声を上げた人がいるのか疑問です。仮に実在したとして、落ちている髪の毛がQBハウスの客のものだなんて、どうやって断定できるのでしょうか。また、QBハウスでは洗髪のサービスはありませんが、最後に吸引機で細かい髪の毛を吸い取る作業があるので、カットした後に大量の毛が落ちるということは考えにくいでしょう。
さらにいえば、髪を切りに行くときに洗髪のサービスを受けるかどうかは、ほとんどの店において任意です。既存店でも「カットのみで、シャンプーはいいです」という客はたくさんいるでしょう。仮に「カット後の客が行く先で髪の毛をまき散らして不衛生だ」という理屈が成立するのであれば、洗髪台を設置しただけでは不十分で、カット後の洗髪を義務付ける必要があります。しかし、それは現実的ではないし、何より既存店も困ってしまうので要望としてあがっていません。
現在、20程度の都道府県で同様の条例が存在します。条例が制定されてしまってはそれに従うしかありません。条例がある自治体のQBハウスは、条例を守るためだけに1台だけ使われない洗髪台があるそうです。
既存の理容・美容業界は、生産性のないネガティブな対抗策ではなく、創意工夫で新たな脅威に対抗するようになってほしいものです。