丁寧すぎる電話対応

私はかつて、コールセンターでアルバイトをしていたことがあります。また、会社員として働いていたときに、個人や法人からかかってきた電話に対応していたこともあります。電話対応の際は「どんな相手からの電話であっても、誠実に対応する」という方針でした。

組織として対応できる範囲というのは決まっていて、それを超えるような要求があった場合は「こちらとしてはここまでの対応はできるが、それ以上は対応できかねる」と伝えていました。そう言えば多くの人は理解します。しかし「それはおかしい。対応すべきだ」と訴えてくる人というのは一定数います。

そんなときは、言い方を変えつつ同じ内容を繰り返し伝えます。2回とか3回ループくらいはよくあります。10回以上ループしたこともありました。ある程度電話対応をしたことがある人なら、同じような経験があるのではないでしょうか。

そういったとき「こちらから電話を切る」ということがなかなか許されないんですね。110番には一定の割合で不要不急の通報が入るそうです。「ヘリコプターの音がうるさい」「家の鍵を閉めたかどうかわからないので、見に行ってほしい」「〇〇へ行く道を教えてほしい」ーこれらは、2022年に鳥取・島根県警が実際に受けた通報の内容です。

警察署の担当者は「ご相談などに対応している間に、緊急で向かわせるべき警察官へ指令できなくなって、現場への急行というのが遅れるという恐れがございます」とコメントしています。そもそも、対応する必要などなく「その要件は対象外です」と言って切ればいいと思うんですよね。

しかし、日本の企業や官公庁では「かかってきた電話は、サポート対象外の内容であっても、その旨を説明して納得してもらったうえで電話を終える」という不文律があるように思えます。それで本来の対応すべき案件が割を食らうのはおかしな話でしょう。

そんな中で、理不尽な苦情に対する秋田県知事の対応が話題を呼んでいます。秋田県では、街地にも多くのツキノワグマが出没しています。10月19日には北秋田市の住宅街で10代から80代までの男女5名が熊に襲われ大怪我を負うなど、県民の命と安全が脅かされる非常事態になっています。

佐竹敬久秋田県知事は、定例記者会見で「人命最優先」の熊対策を行うと表明しました。その際に記者から、地元の猟友会による熊駆除に対し自治体に殺到したという抗議の電話について尋ねられたところ「すぐ切ります。ガチャン。これに付き合っていると仕事ができない。これ業務妨害です」と回答しました。これはなかなか画期的な対応だと思います。しかし、本来こうあるべきなんですよね。

私が以前勤務していた会社で、組織再編に伴い一部サービスが終了することになりました。それに対して「サービスを継続してほしい」というと強く要望する声がありました。一般社員や、管理職社員が対応するも納得してもらえず、最終的には担当役員が対応することになりました。

役員が3時間ほど説明して、ようやく対応終了しました。会社としては、一般社員が対応したときから終始「総合的に判断して、サービスを終了することになりました。利用規約に書いてある通り、サービス終了に伴って利用者に補償をすることはありません」という説明しかしていません。

終了するサービスのイチ利用者に、担当役員が何時間も電話対応するというのは、明らかに非効率的な行為です。本来なら、役員に回す前に「これ以上はこちらとしても対応できかねます」と断言すべきだったと思います。ところが、特に日本企業や日本の官公庁では「先方が納得しなければ納得するまで説明すべき」という不文律に基づいて対応しているような気がします。

秋田県庁の場合は「熊がかわいそうじゃないか!」ときたら「すぐ切ります。ガチャン」ですよ。どこの誰かも明かしていない、秋田県民かもわからない相手が県の施策に文句を言ってきているわけです。話を聞く必要なんてないんです。とはいえ、それを実行に移せるのはすごいことだと思います。

「お客様は神様」なんて言葉がありますが、業務の邪魔をするような電話であれば、秋田県のように毅然とした対応をしてもいいんじゃないでしょうか。

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