最近はハラスメントに関する記事を書いてきました。今回、私自身が受けた新種のハラスメントに関して書いてみようと思います。
「コクハラ」というハラスメントがあります。明らかに脈がない状態で、一方的に好意を告げ、相手に不快な思いをさせることを意味するそうです。「ハラスメント」と「果敢なアタック」との切り分けが難しそうです。
有名人カップルの馴れ初めなどで、「初めはまったく相手にしてもらえなかったけど、諦めずに何度もアタックしてOKをもらった」といった話は何度か聞いたことがあります。そういうのも今の時代では、コクハラということで断罪されてしまうのでしょうか。容姿が整った人や、各種スペックが高い人がやれば「情熱的なアプローチ」、そうでもない人がやれば「コクハラ」に分類されてしまう、ということなのかもしれません。
ただ、今回紹介したい私の体験はそういうコクハラではありません。ある土曜の午後、混んでいるカフェでの出来事でした。店内は満席、右隣の客とは、「お互い手を腰に当てて肘を張るとぶつかりそう」というくらいの距離でした。左隣は空いていたのですが、すぐにスポーティーな恰好で部活帰りの高校生といった風情の男女2人組が座りました。
私は特に気に留めず本を読んでいたのですが、どうも2人の様子がおかしいのです。お互いに周囲を気にしているようなそぶりです。女の子の方が照れ笑いを浮かべながら口を開きました
「なんか・・・人多いね・・・他の店にする?」
男の子は「いや、他も同じだと思うからここでいいよ・・・」と、同じく照れ笑いを浮かべながら返しました。その後もそわそわして、互いに口を開くきっかけを待っているようです。鈍い私にもすぐにわかりました。今から告白をしようとしているのだと。
いや、しかし考えてもみてほしいのです。座席同士の距離が近い割安なコーヒーショップ、それもほぼ満席の状態で告白をする・・・それがどれだけ周りの人間の心をザワザワさせるか。現に私は、自分が告白するわけでもないのに、動揺して本の内容がまったく頭に入ってきません。
もう今から席を立つわけにはいきません。周囲の客に「あいつ、いたたまれなくなって逃げだしたな」と思われてしまいます。いや、仮に思われたところで、私の人生に1mmの影響もないことはわかっています。それでも動けないものは動けないのです。
男の子が意を決したように口を開きました。
「あの・・・さ」
2人の会話を聞いてはいけないし、聞いていると思われてもいけません。目線は本のページに固定していますが、日本語なのにまったく文字が読めません。
「〇〇ちゃんと会って・・・どうたらこうたら・・・どうたらこうたら・・・どうたらこうたらして、本当にいい子だなって思ってて・・・だから・・・」
女の子はずっと照れながら聞いています。しかしなぜかその先の記憶がありません。私の性格からいって、その状況で席を立つことはないと思うのですが、2人がどうなったかまったく覚えていないのです。
人はあまりのストレスに晒されると、自己防衛のためそのときの記憶を消去すると言われています。もしかすると私にも、そういう機能が働いたのかもしれません。というわけで、公共の場で告白を始めて、周囲の人間にストレスを与えることを私は「コクハラ」と定義したい。とはいえ、今回は未来ある若い2人ということで寛大に許してやろうと思っています。