2021年12月から2023年5月の間、PCR検査や抗原検査を無料で受けることができました。この期間、都内の至る所で無料検査所ができていたのは記憶に新しいところです。感染拡大時期には、検査待ちの行列ができていたほどです。
無料で受けられるといっても、検査所の運営には当然費用はかかります。検査キットなどの原価、検査所で働くスタッフの人件費、検査所の維持費などは、国の交付金を財源とする都道府県の補助金で賄う仕組みでした。
この補助金に関して、東京都が183億円、大阪府が81億9000万円、千葉県が1億6000万円の交付取り消しや不交付の措置をとっていました。東京都は6月に、11の事業者に不正があったと公表しました。不正の内容は以下の通りです。
・検査をしていないのに検査をしていると偽った
・検査数を水増しした
・認められた検査所以外の場所で検査を行った
無料検査実施期間中、事業者には国から1件あたりPCR検査9500円、抗原検査4000円を上限に補助金が支払われていたそうです。知り合いに無料検査所で働いていた人がいて、話を聞いてみました(そこでは不正は行われていなかったそうです)。その検査所では、ピーク時は1日あたりPCR検査は100件、抗原検査は50件程度実施されていました。受検者数には波があって、閑散期だとPCR検査20件、抗原検査10件程度の日もあったそうです。
単純計算すると、ピーク時は1日115万円、閑散期は1日23万円程度の補助金収入があることになります。仮に1日平均50万円程度の補助金収入があるとすると、1か月で1500万円。スタッフ5人で回していたとすると、ひとりあたり高めに見積もって1日1万5千円払っていたとして、1か月の人件費は225万円程度。検査所の維持費や、キットの原価等を差し引いてもかなり利益が出ていそうです。雨後のタケノコのように、ポコポコと無料検査所ができていたのも頷けます。
知人は「特に抗原検査は不正がしやすい」と言っていました。PCR検査の場合、ほとんどの検査所には実際に検査にかける装置がありません。検査所では検体(唾液)を採取するだけで、検体をラボに送って判定を行います。
PCR検査の補助金を100件分受け取るには、100件分の申込情報だけでなく100件分の検体が必要となります。100件分申請が来ているのに、検体は50件しか来ていないとなると、不正がバレバレですからね。しかし、架空の申込情報をでっち上げて、さらにスタッフの唾液等を入れて検体まで用意するとなると、不正のハードルが上がります。
一方で、抗原検査に関しては検査所で判定を行います。使用済の検体は廃棄するため、申込書を出すだけで補助金の申請ができていたそうです。嘘の申込情報を量産して4000円×件数分の補助金をだまし取った事業者もいたようです。
補助金を出す方である東京都などの自治体のチェック体制は、あまり整っていませんでした。埼玉県や和歌山県は、事業者に逐一申込書の提出を求めていましたが、そういった対応を取っていなかった自治体もありました。報道によると、東京都の場合、性善説に立って申込情報に基づき申請を通していました。件数が不自然に多いときのみ申込書を提出させ、本人に連絡して受検の有無を確認していたそうです。
自治体に対して「税金を使っているのだからもっと厳密に精査すべきでは」という意見もあるでしょう。しかし、当時は「ひとりでも多くの人が検査を受けられるように」ということを優先して、チェック体制を整えるのが後回しになっていました。後になってそれを批判するのは簡単ですが、チェック体制を厳しくしていたら「今は検査を受けられるようにするのが優先だろう」という声が上がっていたことも予想できます。
過去のことについては、不正をした事業者に厳しい対応を行う、ということでよいのではないでしょうか。今後同様のことが起こったときに、事業の円滑な実施と不正の防止を両立させる方法を今から考えておくのがよいと考えています。