人は誰しも、深く考えることを避けたがる傾向があります。ランチに牛丼を食べるかラーメンを食べるか迷ったとき、それぞれの選択肢を選んだ際のメリット・デメリットを詳細に比較検討して決めたりはしません。直感でどちらかをスパっと決めて、後で「どうしてそっちを選んだの?」と聞かれても「なんとなく」としか答えられないことの方が多いでしょう。
深く考えるためには、可能な限り多くの情報を集めて、それらを分析する必要があります。しかし、それはとても面倒なので、私たちは直前に入手した情報だけで判断をします。飛行機が墜落したというニュースを見れば、飛行機での移動を避けて新幹線や車を使おうとします。このとき、飛行機事故で死亡する確率が約20万分の1で、自動車で死亡するリスクはその2000倍(約1000分の1)という事実は無視されます(アメリカ国家安全保障会議のデータによる)。
仮にある野菜から、基準値を大幅に上回る有害物質が検出されたというニュースが報じられたとしましょう。すると消費者は、その野菜を買い控えて他の野菜を買うようになります。どの過程で汚染されたのか、汚染はその野菜だから起きたのか、それとも他の野菜でも起こり得るのか、一過性のものなのか、今後も起こるリスクが高いのか・・・そういったことを検証するのは非常に手間がかかります。そこで私たちは、「当面その野菜を食べなければ大丈夫だろう」とう安易な結論に飛びついてしまうのです。
2018年、アメリカでは国内に20以上の店舗展開している外食チェーン店に対して、調理済の状態でのカロリーを表示することが義務付けられました。これに関連して、興味深い調査結果があります。
消費者は、カロリー表示がメニューの左側にあるときの方が、右側にあるときより影響されやすいという結果が出ました。人が何かを読むとき、左から右に読むのが普通です。カロリー表示がメニューの左側にあると、まずカロリーの数字が頭に入ります。いきなり「600kcal」といった数字が目に飛び込んでくると、「うわ、チーズバーガー1個でこんなにカロリーがあるのか」と思ってしまい、食べたいという欲求にブレーキがかかります。
先にメニューの品名や写真を見た場合はどうでしょう。「チーズバーガーの写真、チーズがとろけてて、肉と一緒に食べたらうまそうだな」と食欲がそそられます。その状態で「600kcal」という数字を見ても、「カロリーは高いけど頼んじゃえ!」と思うかもしれません。
学習塾のホームページを見ると、授業料が明記されているところと、されていないところがあります。明記されているところは、一般的に考えられる相場より安い授業料設定になっています。入会を検討してホームページを訪れた人は、早い段階で料金を調べます。そこで、「意外と安いな」という印象を持ってもらえれば、入会につながりやすくなります。
一方で、相場より高い授業料設定の学習塾は、ホームページを見ても授業料が明記されていません。入会を検討している人がいきなり高めの授業料の情報に触れることで、選択肢から外すことがないようにしているのです。
ホームページどころか、資料請求で送られる資料の中にも授業料が明記されていない学習塾もあります。そういったところの授業料は、かなり高額と考えていいでしょう。授業料の開示はとにかく教室に来させてから。面談である程度その気にさせて、ようやく授業料を提示するのです。
裁判員がいる裁判では、裁判官は裁判員に対して「見聞きした証拠や証言の中で、正式に証拠として採用できないものは無視するように」と指示するそうです。この指示は、現実的に従うことが難しいでしょう。
あなたが強盗事件の裁判で裁判員を務めるとします。そこで「被告人は普段から金に困っていた。また、地元の反社会的勢力とも交友関係があった」という証言を聞きました。ところが、何らかの事情で、その証言には証拠能力がないと判断されたとしましょう。あなたはこの証言にまったく影響されずに、評決を下せるでしょうか。
人は最初の方に入手した情報をもとに第一印象を作り上げます。そしてその後で第一印象に反する情報に触れても軽視しがちです。ある問題に関する情報が全部で10あるとして、最終的にすべての情報を入手するとしても、どういう順番で入手するかによって結論が変わってしまうこともあるでしょう。
未知の分野の情報収集をする際は、信頼性・中立性が高い情報から見ていくのがよいでしょう。最初から根拠に乏しい情報や、主観が多く含まれる情報に触れると、合理的でない結論に至るリスクが高まります。ネットは手軽な情報源ですが、上記のリスクに留意する必要があります。検索して上位に表示されるページに書いてある情報が信頼性が高いとは限りません。
未知の分野の情報収集においては、その分野で基本書と呼ばれる書籍を数冊、最初に読むのがおすすめです。ビジネスで中国市場に参入するのであれば、まずは中国でのビジネスに関して網羅的に書かれていて、専門家が勧める名著から読むのがよいでしょう。いきなり『中国ビジネスの裏技』みたいな本からは読まない方がいいのです。
書籍は発行されるまでに多くのチェックを経ていますので、基本的な事実の誤りが含まれるリスクは低くなります。また、専門家や多くの人に読み継がれているという事実から、一定のクオリティも保証されています。
自分を含めて、人は深く考えることが苦手で、第一印象に左右されがちということを自覚して、なるべくその弊害が出ないように工夫して情報収集をするとよいでしょう。