優れたAIよりも不完全な人間が選ばれるわけ

テクノロジーの発達によって、将来多くの仕事がAIに奪われると言われています。電車運転士・一般事務員・銀行員・工場作業員などが、AIによって将来なくなるかもしれない仕事の候補として挙がっています。

AIは正しくプログラムされているという前提において、うっかりミスのリスクがありません。疲れ、体調不良、メンタルの不調といったことが原因で、パフォーマンスが落ちることもありません。「決められた作業を正確にこなし続ける」ということが得意で、データ入力・各種の計算・ライン作業などは、人間よりはるかに優れた成果を出せるでしょう。

一方で、医師・看護師・コンサルタント・営業などの仕事は、AIにとって代わられにくいと言われています。これらの仕事は、個別の状況に応じて高度に専門的な判断が求められたり、相手の状況や感情を踏まえた細かなコミュニケーション能力が必要とされるため、AIで代替することが難しいと考えられています。

これらのAIで代替が難しいと言われる仕事でも、実はAIの方が優れているという調査結果があります。

上の表は、ある企業で管理職をしているA氏とB氏が、採用時に人事コンサルティング会社による評価を受けて、5つの項目について10段階で採点された結果の一覧です。

この一覧をもとに、国際的なコンサルティング会社で働く心理学の専門家を集めて、現在のA氏とB氏の評価を予測してもらいました。彼らの予測の精度は55%でした。現在のA氏とB氏、どちらが高い評価を受けているか予測して、それが当たっている確率が55%だったという意味です。サイコロを振ってランダムに予測した場合の精度、50%より少しましという程度です。

同じ表を用いて、今度はコンピューターを使った統計的処理によって、現在のA氏とB氏の評価を予測させてみました。予測精度は60%という結果でした。コンサルティング会社の専門家の予測よりは高い精度です。

病院に運ばれた急患に心臓発作の兆候があると認められた場合、救急医は追加の検査をするかどうかの判断に迫られます。検査は金銭的なコストがかかるうえに、患者にとって検査自体がリスクになり得るため、心臓発作のリスクが高いときのみ実施することになっています。

行動科学者のセンディル・ムッライナタンは、AIを使った心臓発作のリスク評価モデルを構築しました。AIモデルの予測精度は人間の医師を上回りました。AIモデルがハイリスクの上位10%に分類した患者は、30%が心臓発作を起こしていたことがわかりました。また、リスクが中程度と分類した患者が心臓発作だったのは約9%でした。

コンピューターを利用した判断は、人間だけによる判断よりも高い精度が出せるようです。それでもなお、医師やコンサルタントといった仕事は、しばらくの間はAIに奪われることはないでしょう。医療やコンサルティングのサービスを提供する側も受ける側も、AIではなく人間が判断することを支持するからです。

その理由として、AIの方が精度が高いといっても「人間が55%なのに対してAIは60%」くらいの差しかないということが挙げられます。その差がわずかとはいえ、なぜ確率が高い方を選ばないのでしょうか。5%が当たりのくじと、6%が当たりのくじがあれば、誰でも6%の方を選ぶでしょう。

しかし、くじではなく人生の重要事項となると、事情が変わってきます。精度が60%のAIの判断に従った結果、自分の会社が傾いてしまったらどう思うでしょうか。精度が60%のAI医療診断に従って、重い障害が残ってしまったらどう思うでしょうか。「あのとき機械任せにしなければ・・・」と一生後悔するのではないでしょうか。AIよりも精度が劣る人間のコンサルタントや医師に任せて失敗したときの方が、まだ諦めがつくような気がしませんか。

もちろん、客観的な数字を見ずに「人間が判断する」ということ自体に価値があるとする考え方は、まったく合理的ではありません。しかし、当面の間、人間はこの不合理な感情から逃れられないでしょう。したがって、最初に挙げた医師・コンサルタントといった仕事はAIに奪われにくいと言えるでしょう。

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