SNSで知人女性を脅したなどとして、大阪府警が20代男性を逮捕したのですが、大阪地検が「嫌疑なし」として不起訴になったことがわかりました。いわゆる誤認逮捕です。男性側は、勾留中の取り調べで検察官から「100%犯人だと思っている」と言われたと訴えています。
府警などによると、今年3月に知人女性が「性的画像を友人に送るとSNSで脅されている」と守口署に相談。府警は4月から5月にかけて、2回にわたり男性を逮捕したのですが、SNSのアカウント作成状況等から無関係と判明し、5月23日に釈放されました。身柄拘束は42日間に及んだといいます。
男性側は8月16日に地検刑事部副部長と面談しました。その際、副部長は誤認逮捕に関して「システムエラー」と表現したといい、男性側は「決して納得できない」と語りました。
「システムエラー」とは一体どういう意味なんでしょうか。逮捕や取り調べのプロセスで使用されているシステムのようなものがあるのでしょうか。それとも、ものの例えで「システム」と表現しているのでしょうか。仮にそういったシステムが存在しているのであれば、誤認逮捕を起こしているのですから早急にシステムを修正すべきでしょう。
おそらく、副部長は「システム」を比喩的な意味で使用したと思うのですが、誤認逮捕した相手との面談でそういった抽象的な表現はすべきではないでしょう。誤りを認めて謝罪し、具体的にどのプロセスでどういう問題があったか明確にすべきだと思います。
そもそも、報道によると「SNSのアカウント作成状況等から無関係と判明した」とのことですが、今の時代にその程度のことを調べるのに40日以上もかからないのではないでしょうか。そんな基本的な情報も調べないで何を根拠に「100%犯人だと思っている」と断言できたのでしょうか。
人は自分の信念と相反する事実を突きつけられると、自分の過ちを認めずに事実の解釈を変えてしまうことがあります。特に、知能が高い人やエリートと呼ばれる人はその傾向が強くなります。
1992年、アメリカイリノイ州で11歳の少女が強姦殺人の被害に遭うという痛ましい事件が発生しました。事件発生後、当時19歳のスミス(仮名)が容疑者として浮上し、逮捕されました。逮捕後スミスは4日間にわたって厳しい尋問を受け、「おまえがやったのか」という問いに頷きました。
警察はスミスの自供に基づいて調書を作成しましたが、殺人現場の状況と合わない点が多すぎたので、新たに自白を取り直す必要がありました。その後スミスは自白を撤回しましたが、裁判ではスミスの自白が検察の主な追及点となりました。
事件の目撃者はひとりもいませんでした。スミスは精神的な病歴があったものの、暴力的な問題は過去に起こしたことがありませんでした。現場には血痕・体毛・皮膚組織・多数の指紋が残されていましたが、スミスのものと一致するものは一切出てきませんでした。しかし、署名付きの自白が重視され、スミスは第一級殺人で有罪となり終身刑を宣告されました。
2005年にスミスの弁護団はDNA鑑定を要請しました。そして同年5月、「被害者の遺体から採取した精液のDNAはスミスのものではない」という結果が出ました。これで晴れてスミスの無実が証明されて釈放・・・とはなりませんでした。スミスは鑑定結果が出てなお6年間、刑務所で過ごすことになります。
検察側はDNA鑑定結果を受けて「被害者はスミス以外の男性と性交渉をしたあと、避妊具をつけたスミスによってレイプされた。だからスミスのDNAが検出されなかったのだ」と、一般人には理解不能な主張をしてきました。もちろん、その可能性もゼロではないですが、「犯人はスミスではない」という可能性の方が圧倒的に大きいでしょう。
別の事件では、DNA鑑定の結果、現場に残された体液が容疑者のものではないことが判明した際、検事が容疑者を「キメラ」であると主張しました。キメラとは、1人で2種類のDNAをもつ人間のことです。たとえば、双子の一方が生まれる前に死亡したとき、その細胞がもう一方に取り込まれてキメラとなることがあります。「さすがにこの主張は無茶かな」とか思わないんでしょうか。この容疑者はその後の鑑定でキメラでないことが証明されています。
冤罪を晴らすための民間団体「イノセンス・プロジェクト」のピーター・ニューフェルドは、容疑者の無実が証明されたときの検察の態度について以下のように語っています。
「容疑者の無実が証明されて裁判所を出るとき、検察側によくこういわれいます。『我々はまだ有罪だと思っている。いずれ再審請求する』。そして再審請求がないまま数か月が過ぎると、最終的にこう言ってきます。『訴訟の取り下げに同意する。それはあいつが潔白だからではない。時間が経ちすぎて証人を見つけるのが難しいからだ。論理的な説明はできないが、あいつが絶対に犯人だという確信がある』。」
警察や検察というのは、どの国でもトップクラスの権威をもつ組織です。そこで働く人々はエリートですし、多くは自分がエリートであるという意識を持っているでしょう。そのため、最初に「こいつが怪しい」と思ったら、思い直すことが難しいのです。客観的に見れば、「こいつが怪しい」という最初の見立てが間違いであると認めるのが妥当であっても、間違いを認めたくないために強引な理屈で自分の主張を通そうとしてしまうのでしょう。
最初に引用した副部長の「システムエラー」というのも、「率直に誤りを認めたくない」という思いの表れでしょう。ただ謝ればいいものを、存在しない「システム」という例えを持ち出して、「システムがエラーを起こしたせいであって、捜査にあたった我々の責任ではない」と主張をしているわけです。